「なんじゃスクル、まさかラービスト殿のお墓は教団本部のど真ん中にあるとでも言うのか?」
スクルが話し始めたらフィムが口を挟んだ。
「いえちがいます、ラービスト大司教のお墓はラービスト大司教領にあります」
口を挟まれたのにもかかわらず、スクルは嫌な顔一つせずに答えた。
「大司教領だって?あいつ領地を持てるとこまで出世したのか?」
スクルの答えにお父様は意外そうな顔をした。
「そう言えばスクル君はずっとラービストのことを大司教と呼んでいるがあいつはあの頃は司教だよな?」
「その通りです、僕が大司教と呼ぶのは亡くなった時の階級が大司教だったからです」
そういえばそうか、生まれたときから大司教だったわけがないからなあ。
「それにしてもあいつがあの後そこまで出世したとは知らなかった」
「お父様が裏切ったおかげでラービストさんは失脚したり、追放されたり、最悪処刑されたかもしれなかったのですからね」
私が皮肉をこめて言ったらお父様は気まずそうな顔をした。
どうやら私はラービストさんにだいぶ感情移入しているらしい、魔王の娘であるリリムがこんなことでいいのだろうか?
「危うくそうなるところでしたよ、勇者様が主神様と教団を裏切ったことの批判と責任の追及をラービスト大司教は一身に浴びました、ですがラービスト大司教は一言も反論や言い訳をしなかったそうです」
「夫様の親友で魔王討伐に推薦した当人じゃからの、でもお気の毒にのう」
「一番罪を負うべき人がその場にいなかったから責任を負わされたのね」
スクルの説明を聞いてフィムと私がラービストさんに同情するようなことを言ったらお父様は「なんだよ、俺が悪いのかよ・・・」といじけた様な事を言った、全くその通りなのですけど。
お母様はお父様をかばうべきか判断がつきかねているようだった、ひょっとしたらお母様もラービストさんに同情しているのかもしれない、しかし考えてみるとお母様は「共犯者」になるのよね。
「しばらくしてみんな落ち着いてきたので、ラービスト大司教の責任について調査が行われたのですが、勇者様の裏切りを事前に予測するのは不可能に近いという結論が出て、公式的には責任は問われませんでした」
よかったよかった、ここにいる一番悪い人が罰せられなくてラービストさんが罰せられるのはおかしいからねと口にしようとしたが、これ以上お父様にいじけられたら話が進まなくなるので黙ることにしたが、次のことは聞きたかった。
「公式的には問われなかったっていうことは別のやり方で責任を問われたってこと?」
「魔王軍との戦いから外されて田舎の小さな学校にとばされてそこの教師になりました」
「さぞ無念だったじゃろうなあ、魔物との戦いに一生をかけるつもりだったろうから」
「でもそこからどうやって大司教になって領地までもらったわけ?」
「学校の教師になって、魔王軍と戦うのには軍事力の強化だけでなく、人材を育てる教育も重要だという考えを持つようになりました。そして教団の中枢に復帰してからは教育政策にかかわるようになったのです」
「ほお、具体的には何をやったのじゃ?」
「教団の影響力がある国に学校を作り、無償で子供たちに教育を与えました。その結果教団の人材は大幅に厚みを増して、教団に好意的な国も増え、教団の影響力は大幅に強化されたのです。その功績で大司教に任命されて、領地も与えられました。現在では魔王軍との戦争よりこちらの方をラービスト大司教の功績と称える人が多いのです。ちなみにナルカーム神聖大学の学長も務めました」
「ほぉ、スクル、お主とも縁のある人物だったのじゃな」
「挫折を乗り越えて立派な教育者になったのね」
お父様に裏切られて失意のうちに亡くなったのかと思ったら立ち直っていたのか、それに比べて親友を裏切った後ひたすらヤリまくっているだけのどこの誰かさんとは大違いね。
・・・私、反抗期はとっくの昔に終わったと思っていたんだけどなあ。
ふと疑問が浮かんだ。
「ねえスクル、大司教ってどのくらい偉いの?」
「上から3番目くらいの階級だよ」
「それだけ功績をあげて教団のトップには立てなかったの?」
「実力や功績からいってもトップに立ってもおかしくないというのは当時の人も思っていた、やっぱり勇者様の件が尾を引いていたと当時も今も考えられているよ」
やっぱり友達は選ばなければならないのね、そう思いながら無言でお父様に視線を向けてしまった。
私だけでなくフィム、スクル、お母様にまで視線を向けられたお父様は「そうやってみんな俺を悪者にすればいいんだ」といじけてしまった。
ここは話題を変えた方がいいかなと思っていたら、現時点で話題がずれていることに気付いた。
「話が思いっきりずれちゃったけど、ラービストさんのお墓参りがまずいのは何故なの?」
強引に話を元に戻した。
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