お父様は昔のことを思い出しながら話し始めた。
「ラビットの奴・・・、いや、ラービストの奴は自ら前線で戦うというタイプではなかった、武器を使うのは得意じゃなかったし、攻撃魔法はそこそこに使えるが平均より少し下、という程度だった」
あだ名で呼ばれることを相手が嫌がっていた、ということを今頃知ったお父様はあだ名を使うのをやめたようだ。
「お父様、ではラービストさんは教団で何をしていたのですか?」
戦いが得意ではない人をお父様が敵に回したくない相手、と表現する理由が分からなかった。
「最初に出会ったときは、あいつは教団で事務仕事をしていた」
「事務仕事?」
「事務仕事といってもたんに書類を整理しているだけの仕事じゃあない、出会った場所は魔物との戦いの最前線から少し下がったところの砦だった」
一瞬あれ?と思ったが当時のお父様は教団にいて、魔物と戦う側だったということ今更ながら気付いた。
「そういうところでの事務仕事というと、単に机に縛りついているような仕事ではないじゃろうなあ」
私もフィムと同じ考えだった、最前線のすぐ後ろなんて、いつそこが最前線になってもおかしくない場所だ。
「そのとおりだ、あいつの仕事もいろいろあった。武器や食料の調達、教団本部からの命令や情報の伝達、砦の維持管理、食事の配給、戦死者の埋葬や遺族への連絡」
「戦死者!?」
驚いて大声を出してしまったけど、旧魔王時代は魔物と人間は殺し合いをしていたということを思い出した。
「ということはその頃はお母様が魔王になる前だったのですか?」
「それはもっと先の話だ、俺もそのころは勇者ではなくて教団の一兵士だったからな」
「え?」
また驚いた、伝説の勇者とも言われるお父様なのだから、生まれたときから勇者になる定めだったとかばかりと思っていた。
「じゃあなぜお父様は教団に入ったのですか?」
「俺の生まれ故郷はチク村というところなんだが、村長の息子というのが父親の権威を笠に着たいやなやつでな。ろくに働かない、嫌がる女性に絡む、昼間から酒を飲むといったありさまで、ある日俺は我慢できなくて奴と決闘したんだ」
「それでどうなったのですか?」
「俺が勝ったんだがな、村長からにらまれる羽目になって結局村を追い出されたんだ。そのあといろいろあって教団兵になったんだ、まあ、その頃は腕っ節に自信のあるやつは教団兵になるのがほとんどだったからな」
「そう・・・だったんですか」
お父様がお母様と出会う前の話は今まで聞いたことがなかった、故郷を追い出されるなんてどれだけつらい思いをしてきたのだろうか・・・。
感傷的な気分に浸っていたところ、それまで黙ってお父様の言葉をノートに書き記していたスクルが疑問を呈した。
「勇者様の故郷を出奔したところの話ですが、僕の読んだ話とはだいぶ異なりますが?」
どういうこと?と思ったらフィムがスクルに尋ねた。
「なんじゃ?スクル、ラービスト日記にはそんなことまで書いてあったのか?」
「いや、そんなはずはないな、俺はラービストにその時のことを話したことは無いはずだ」
「いえ、ラービスト日記ではないです。勇者様、その村長の息子の名前はグムトですか?」
「その通りだが、よく知っているな」
「グムトは父親の後を継いで村長になりました。その後、複数の人から勇者様が村に住んでいた時のことを聞かれたのですが、勇者様こそろくに働かない、嫌がる女性に絡む、昼間から酒を飲む、グムトをカツアゲする、というような人だったと証言しています」
は・・・・?お父様ってそういう人だったの・・・?どっちが正しいの?
お母様もハァ?というような顔をしていた。
お父様はやばい!といいたげな感じの顔をしていた。
「ちょっとまてスクル、グムト村長がそう証言したのは夫様が教団を裏切り、魔王様と結ばれた後のことじゃないのか、そうならば悪く言うのも当然じゃろ」
フィムは焦ったような感じでスクルに詰め寄った。
「グムト村長が証言したのは確かにその頃です、ですが他の記録もあります。勇者様、当時チク村を担当していた巡回神父のサキテスという人を覚えていますか?」
「あ・・・あぁ覚えているな」
お父様は肉食獣に追いつめられた小動物のような雰囲気を漂わせていた。
「サキテス巡回神父の業務日記にも勇者様のことが書かれています、こちらはグムト村長の証言と異なりリアルタイムで書かれたものです。どうしようもない不良で、手がつけられない暴れ者で、村一番の鼻つまみ者と書かれています、このままでは村中から集団リンチされてしまうので、無理やりにでも教団兵にするということでおさまったと記されています」
「あなた・・・、スクルさんの言っていることってホントなの・・・?」
お母様はジト目でお父様をにらんでいた。
「いや・・・その・・・まあ・・・」
歯切れ
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