調査がこれからってどういうこと?なぜフィムはそのことがわかるの?
「魔王様、夫様、エル、この手紙が夫様ののろけの手紙であるという結論が大学で出ていたのなら、スクルがわざわざ魔王城に来る必要はないのじゃ。そうであろう?スクル」
「はい、この手紙は勇者様からラービスト大司教への愛の告白、いわゆるラブレターであるというのが歴史学科での大多数の考えなのです」
お母様の機嫌が目に見えて悪くなった。
「まさかスクルもそう考えていたの?」
「僕も最初はそう思ったけど、勇者様の文章の癖に気付いてからは、別の意味があるんじゃないかとは思うようになりました。ですが、ラブレターではないという考えは僕も含めて少数派なのです」
「この手紙を読んでラブレターだと思わない方がどうかしているのじゃ、魔王様もそう思ったのじゃろう?」
「え?まぁ・・・その・・・」
お母様は実に歯切れが悪かった。
「この手紙がラブレターでないということを大学の連中に納得させるのには、夫様の『この手紙は俺が母さんをいかに愛しているかということを書いたものなんだ』という言葉だけではまるで足りないのじゃ」
「ということは俺と母さんが大学に行って、みんなの前でいちゃつきながら説明すればいいということなのか?」
お父様の言うことを聞いてお母様は顔を赤らめた。
「お父様・・・それはちょっと・・・」
「夫様・・・主神や教団との戦いに一気に片を付けるおつもりなら止めはしませんが、大学は反魔物国家連合のど真ん中ですぞ」
「冗談だ」
お父様は一貫して鷹揚に構えていた。
お母様が手紙を見たときに魔王城を全壊させかねない雰囲気だったのとは正反対だった。
スクルは荷物の中から厚い紙の束を取り出した。
「この手紙の真意をはっきりさせるために、歴史学科で『勇者様への質問書』を作成して持ってきました。勇者様が問題なければご協力お願いします、回答はまとめて大学に送ります」
「大学は反魔物国にあるのよね、そんなことできるの?」
「中立国の中には手紙の転送サービスをしているところがあるんだ、その点については教授と打ち合わせ済みだよ」
「もしこの質問に協力しなかったらどうなるのかしら」
お母様が不安そうな顔でスクルとフィムに質問した。
「こちらとしてはお願いする立場ですので、断られたらその旨を手紙に書いて送るだけです」
「協力しなかったら大学の連中は間違いなく『魔王城の連中は都合が悪いことがあるから答えなかったんだ』と考えますな、可能な限りこちら側にとって最悪の解釈をするでしょう」
「最悪の解釈って・・・?」
フィムの説明に対してお母様はますます不安そうになった。
「儂の考えられるところでは夫様は真正の同性愛者で、魔王様との中は仮面夫婦である、ということくらいかのう」
スクルが私だけに聞こえるように耳打ちをしてきた。
(歴史学科で話し合っていたときに今のよりもっとひどい解釈もあったんだ、このことは言わない方がいいかな?)
私は全力で首を縦に振った、このやり取りは幸いにも他の人には気づかれなかった。
お母様は追いつめられたような顔でお父様に頼み込んだ。
「あなた、スクルさんの質問に協力してあげて、教団の中であなたや私の悪いうわさが広まるなんて耐えられないわ」
「分かった、母さんが望むのなら協力するぞ」
このやりとりをスクルはハァ?というような顔で見ていた、たしかに教団ではお母様やお父様の悪いうわさなんて山ほど流れているだろうけど。
今度は私がスクルに耳打ちした。
(お母様は外聞や世間体を気にする方なのよ)
(外聞や世間体を気にする魔王様?)
スクルはどう考えても理解できないようだった。
スクルの質問にお父様が回答することに同意したので私たちは部屋を移動した。
それまで使っていた部屋はすぐ前が人通りの多い廊下で、壁もそんなに厚くは無かったので他人に聞かれる可能性があった。
お母様はお父様の変なうわさが教団の中で広まる前に、魔王城の中で広まることをも恐れているようだった。
私たちが移動した部屋は魔王城の中でも奥の方で、執務室のすぐ隣にある会議場だった、ここなら他人に聞かれる心配はあまりしなくていい。
会議室のテーブルにスクルとお父様が向かい合う形で座り、スクルの隣には私が、お父様の隣にはお母様が座った、フィムは私たちから90度斜めの場所に座った。
「先ほどは言い損ねたのですが、この手紙以外の質問もありますがよろしいでしょうか?」
「一向に構わないよ、始めたまえスクル君」
「最初から10個ばかりは、最も大事な質問ですのでお願いします」
「ああ」
スクルは質問書の表紙をめくった。
「では始めます、100引く7はいくらですか?」
「?93だろ」
「では93引く7は?」
お父様は少し考えて言った。
「87・・・じゃなくて86だ」
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