ガラクタ道の終焉

俺の名は、ジャン・クロード。

今でこそ、貴族となったが、元はスラム街で生まれ育った貧しい貧民だ。

親がいない孤児だった俺は、生きるためなら何だってやった。

泥棒、裏切り、密売・・・さまざまな悪行をおこない、気がついたら傭兵家業に身を染めて、荒くれ者どもと共に、死の香りが漂う戦場でその日暮らし・・・。

自分が何のために生きているのかわからない日々が続いた。

しかし、そんな俺に意外なところから転機が訪れる。

妖魔貴族であるヴァンパイア。ローズ・フォン・ストロングホールドから、領地に攻め入ってくる教団撃退のために、戦力となる傭兵達を人、魔物問わず召集しているという噂が俺の耳に入った。

自分の存在意義がわからなかった俺は、何気も無く、金に目が眩んですぐさまその召集に駆け寄った。

どうせ何時朽ちるかわからない命、死ぬにしろ名を上げるにしろ早いほうがいい。

そんな心持ちで俺は戦場に赴いていた。

そして、広大な平地で、教団と妖魔貴族との壮絶な戦いは始まった。

あちらこちらで、阿鼻叫喚の地獄絵図が怒号と共に広がる。

教団の騎士達は、人であろうとも金で魔物に味方する俺達を激しく罵倒したが、無神論者である俺に、教団の教えなど、くだらない戯言にしか過ぎない。

こっちは、自力で、毎日毎日、生と死の狭間を味わっているんだ。

神さまなんて、糞喰らえ。

正しいのは自分と金だけだ。

それが、今まで孤独のなかで生きて汚れきった俺の真実だった。

金を出すなら例え人だろうが魔物だろうが、多く出すほうに味方する。

その方が、扱うほうも合理的で扱いやすいだろう。

戦の決着は辛くも妖魔貴族の勝利で終わった。

その時、軍を仕切っていたのは無論、この土地の領主であるローズ・フォン・ストロングホールドだ。

彼女は、自分が前線で指揮を取りつつも、この戦いで生き残った猛者達に感謝の言葉と、多くの報酬を支払った。

今時、珍しく果敢で太っ腹なその性格に、多くの傭兵達が、関心を示す。

彼女は飴と鞭の使い方を良くわかっていた。

ぬるま湯に浸っているその辺の貴族とは違い、非常に頭のキレる存在だ。

対して俺は、大きな成果を上げることも出来ずにこの戦いで右腕を失った。

これで、まともに金を稼ぐことが出来なくなる。

報酬は貰ったが、生活で金を食いつぶしてしまえば、一年も持たない金額だった。

このまま朽ち果てるしかないか・・・。

途方にくれていた俺に、突然領主が声を掛けてきてこう言った。

「その身体では、傭兵として生きていくのは心苦しいものがあるだろう。私の屋敷にこないか?」

それは俺にとって、またとない転機であり、二度と出ることが出来ない牢獄への招待でもあった。

コンコン、と金細工が施された部屋の扉にノックを鳴らして、領主の返事を待つ。

「入りなさい」

「・・・失礼致します」

その返事と共に、俺は彼女がいる部屋へと頭を下げながら入室した。

領主、ローズ・フォン・ストロングホールドは、机に腕をかけながら、長い金髪を靡かせて、気だるそうに書類に目を通している。

彼女は、色恋事に無縁な俺の目から見ても、凄まじいほどの美しさを秘めていた。

先ほども言ったとおり、長く、美しいシルクのように柔らかな金髪に、女性なら誰もが羨むような長身的なスタイル、小顔で整った顔は通りかかった男性が皆振り向くほど、凛々しく麗しい。

俺は少し緊張しつつも、すぐさま、いつもの調子を取り戻そうと、息を整え言葉を紡いだ。

「本日より此方のお屋敷にお世話になります。ジャン・クロードと申します。僭越ながら領主様のお役に立ちたいと・・・」

「堅苦しい挨拶はいいよ、ジャン。それより、早速頼みたいことがあるんだ」

「・・・は、なんなりと」

領主は、俺の挨拶などどうでもいい様だ。

確かに、貴族にとって傭兵なんてものは薄汚い、荒くれ者に他ならない。

そんな傭兵上がりの俺の挨拶など、聞きたいとも思わないだろう。

さて、早速仕事か・・・右腕を失った俺にも出来ることならいいのだが・・・。

しかし、領主が言った次の一言は、俺の想像を遥かに超えるものだった。

「今、メイドに準備をさせるから、私と一緒にお茶を飲んで欲しいんだ」

思いもよらない言葉に、は?・・・と俺は心の中でそう口走っていた。

「お茶・・・ですか?」

「ああ、隣国から上質なお菓子を取り寄せてね。是非、君と一緒に食べたいと思ったんだ。・・・駄目かな?」

「い・・・いえ、滅相もない。喜んでご一緒させていただきます」


どうしてこうなった?

今・・・俺こと、右腕を失くした落ちたる傭兵ジャン・クロードは、小鳥達が囀る見晴らしのいいテラスで、妖魔貴族であるローズ・フォン・ストロングホールドとお茶を
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