もてない作家の一日

「ちくしょーーーー!!」

ここは親魔物領にあるとあるアパートの一室。

もてない小説作家、ベン・ジョンソンが雄たけびを上げながら、原稿用紙に向かい合っていた。

「ぜんっぜん思い浮かばねえええええええええええ!来週締め切りだってのに!これじゃあ、担当に殺されるうううううう!」

どうやら、月間誌に載せている詩集の締め切りが迫っていて、その追い込みをかけている様だ。良い文面を書けずに悪戦苦闘している。

「しかも、愛とクリスマスをテーマに詩集を書けだなんて、あの腐れ担当マジで俺に喧嘩売ってんのか!?ぜったいに買わねーけどな!」

ベンの言う腐れ担当とは、彼が契約している出版社の編集担当の事だ。
名前はラミナ。


この編集担当、種族はラミアで美人だが、かなり仕事に厳しく、原稿の仕上がりが悪いと容赦なくベンに駄目出しをしてくる。ドМには嬉しい毒舌付きで。

「だいたい、コメディー小説でたまたま当たってこの業界に入った俺がそんな愛だの恋だのクリスマスなんてスイーツな詩集書けるわけねーだろ!
てゆーか何で詩集?ポエム?俺は歌人じゃねーぞ!
たまたま詩集書いてる奴がインフルエンザでダウンしたから代わりに書けとかわけわかんねー事言いやがって!テーマ作った奴、男だったら金玉破裂しろ!!女なら恐ろしいくらいのイボ痔になれ!そしてクリスマスとイヴの二日間だけ俺以外インポになれ!!」


ラミナの駄目出しという報復が怖いため、彼は心のそこからテーマを課した編集者に悪態をつく。そして、最後のはリア充に対する歪んだ僻みである。

彼は過去に、どういうわけか、誤って小説の原稿をトイレに流すという事件をやらかしており、気を失うまで担当のラミナにロールミーされた事を思い出していた。


そんな、彼女の前で締め切りに間に合わないなどと言ったら、体中の骨を砕かれるまで、締め切られるに違いない。締め切りなだけに・・・。


ガクブルと身震いしながら、ベンは過去の記憶に耽っていると、呼び鈴がならされる。

彼は、ハッとしながら、玄関の方を向いた。

「先生、原稿の様子を見に来ました。居るのはわかっています。早く扉を開けてください」

凛とした女性の声、間違いなく担当のものだ。



(やべえええええ!抜き打ち訪問とかなんの拷問だよ!?)


とりあえず、居留守を試みる。

鍵は掛けている。しばらく、待てばあきらめて帰るだろう。


「・・・・・」

「・・・・・」

しばしの沈黙。

ガチャリ!  

しかし、次の瞬間ドアノブが回り、玄関の扉はたやすく開かれた。

「!?」

「いるじゃないですか・・・。なに居留守してんですか?」

いともたやすくラミナの進入を許してしまったべンは、何故?とばかりに疑問と驚愕を綯交ぜにした顔を浮かべていた。


「んな馬鹿な!鍵は閉めといたはずだ!」

「先生、前にスペアの合鍵を私に預けたじゃないですか。外出中に私が来た時のことを考えて・・・」

ハッ、とまたもやべンは自分の犯した過ちを思い出す。

過去に彼女との打ち合わせの前日に仲間(今となっては憎むべき敵)との飲み会でデロンデロンに酔っ払って潰れてしまい、その日の打ち合わせを台無しにした時のことを・・・。

そのときは、夜遅くまで玄関の前で待っていた彼女に、ボコボコに殴られて、やっぱり、失神するまでロールミーされた記憶が鮮明にべンの脳裏で思い出される。

「なにしてんの!?過去の俺!」

「なに叫んでんですか、近所迷惑ですよ。いや、そんなことよりも、原稿は何処まで進んだんですか?」


「げ・・・原稿はもう後半に差し掛かってるよ。今フィナーレに向けてラストスパート掛けてるところだぜベイベー!」

「・・・ちょっと、原稿を見せてください」

ラミナは長い黒髪を掻き揚げて、催促するようにベンの前に右手を差し出した。

「いや、今はちょっと・・・」

「いいから、見せろ」

「ひっ!」

(口調が変わった!これは拙い!やられる!)

彼はそう思った瞬間に、マッハで原稿を取って来るとすぐさまラミナに差し出す。

「ど・・・どうぞ」

ラミナはその差し出された原稿に目を向ける。

「・・・・どういうことですか?これは・・・」

「い・・・いや、趣向を変えてあぶり出しにしてみ・・・いっ痛い!無言で殴らないで!?すいません、調子乗ってました!全然進んでません!」

べンは秘技、フライング土下座を敢行しながら平謝りした。






「・・・わかりました。恋愛経験が無いせいで、詩集が掛けないと・・・」

「はい・・・そういうことです」

ベンが経緯を話すと、ラミナは腕を組みながら案を練った。

「片思いとかしたことありますよね・・・。そういうのでも良いんでさっさと原稿上げてください」


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