「退屈だ……」
そうボソリと漏らしたのはある1人の女性。
緑色の鱗と甲殻をその身に纏い、背中からは翼、後ろ腰には尻尾を生やした魔物であるドラゴンだ。
どこか鋭さのある美しい顔立ちに、腰の辺りまで伸びる薄紫色の髪の毛。
彼女はドラゴンのイオ。
此処はある田舎村の傍にある壊れた小さな城の中で、イオの住処でもあった。
壁と床は石造りだが所々崩れており、廊下等は薄暗くて鼠等の小動物がちょこまかと走り回っている。
そんな場所で彼女は、一体何に退屈しているのか。
「最近は挑戦者が居なくなったな……」
そう、彼女はこの味気ない生活に退屈していた。
金銀財宝の宝もあるし、教団からの刺客や名を挙げようとする賞金稼ぎもまるで来なくなってしまった。
それはそれで静かな生活ができていいと思っていたが、こうも誰も来ないと幾らドラゴンといえども退屈はする。
特に娯楽等を知らないのならなおさらだ。
「そうは言っても、誰かが来るわけではないか」
溜息を吐きつつイオは自分のベッドに寝転がる。
このベッドはこの城の廃墟に捨てられていた物を少しだけ補強して使っている物だった。
目の前には山積みにされた金銀財宝がある。
キラキラと輝いていて少し眩しい位だ。
「これを見ていると、心が癒される」
イオはそう言うものの、自分の心の奥底にある感情を誤魔化しきれていない。
(何かが、足りない―――)
金貨や王冠、銀食器に宝石等、イオが集めた財宝の中には既に膨大な種類の財宝がある。
しかし、イオは直感とでも言うか、本能で分かっていた。
自分の財宝には何かが足りないのだと言う事を。
「……ええい!止めだ止め!」
考えていても、分からないものは分かりようが無いとばかりに、イオは考える事を放棄してベッドの上で目を閉じた。
次に目を覚ます時には、この足りない物が何か分かるように願って。
ついでに、退屈も紛れるようにとも。
所変わってイオの住まう城の廃墟のある山の麓には小さな小さな村があった。
しかしこの村は既に廃墟となっていた。
人はおろか魔物ですら暮らすのが困難になってしまい、人々が離れていった土地である。
しかしこんな村の跡にも需要はある。
そう、例えば―――
「かかれぇえええええ!」
―――盗賊の隠れ家とか。
盗賊達はこの村の跡を隠れ蓑として立ち寄り、旅の疲れを休めようとする者達から荷物や金を奪うという活動を行っていた。
辺りは草原で、一見盗賊が隠れれるような場所ではないが、村の手入れをある程度行い、村人に成りすます事での奇襲が効果的だった。
今のも、此処へ立ち寄った旅の戦士が隙を見せた瞬間に盗賊の手下共が襲いかかろうとしている最中である。
襲い掛かった相手は、蒼い色のフルプレートメイルと様々なな武器で全身を武装した男だった。
兜のせいで顔は見えないが騙まし討ちをする為の会話で、声が若い男だったので、恐らく青年であろうと盗賊達は予想していた。
青年の背中には身長より長い長槍と、身長より少し短い短槍が背負われており、右腰には剣、左腰にはメイスが下げられていて、後ろ腰には鉄製の弓と矢が下げられている、かなりの装備だった。
そして1番の特徴は兜に付いている装飾の、額の上辺りから生えるユニコーンのような一本角である。
四方八方から迫る盗賊の手下達を兜の下から見ると、背中に背負っていた長槍を外して両手に持つ。
目測だが、長槍の長さは青年より長く、青年の身長が180センチ程度なのに対して槍は210センチ程度である。
両手でしっかりと握った槍を青年は自分を中心に周囲を一気に薙ぎ払うように振るうと、風圧が生まれ、その思わぬ風圧によって怯んだ盗賊達の足は一時的に止まった。
青年はその隙を見逃すほど甘くは無かった。
1番手近な盗賊に接近し、長槍を突き出してその腹を貫いた。
鮮血が槍の刃に付着して盗賊は膝からその場に崩れ落ちる。
「か、はっ……!?」
臓器を損傷した盗賊は致命傷を追い、青年はすぐさま次の行動に移るために槍を引き抜いて次に1番近い位置に居た盗賊へと駆け寄っていく。
「は、速いっ…!?」
先ほどから青年の速度はフルプレートメイルや様々な武器で全身を武装しているとは思えない程の速度だ。
青年は驚異的な速度で盗賊の1人に接近すると、槍を横薙ぎに振るって盗賊の手下の腰を狙う。
しかし盗賊の手下と言えど唯黙ってやられる訳ではなく、手に持っていた短剣でどうにか防御する。
「―――っ!?」
だが青年の持つ長槍の威力は盗賊の想像を遥かに越えており、防御するも短剣はその手から弾き飛ばされてしまい、長槍が脇腹に叩き込まれる。
今の一撃で盗賊の身体の骨は幾つかが折れ、あまりの痛みに気を失う。
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