大きな洞窟の入り口の前に、僕らは佇んでいた。
「ここか…」
「禍々しい雰囲気ですね…。」
僕らは、神の加護を受けた勇者とそのお供という二人組み。
魔王を倒し、魔物達の侵略を止めるための旅の途中、
立ち寄った村で、とんでもない話を聞いた。
なんとこの先の土地は、魔物達の侵略によって、魔物が跳梁跋扈する場所…
すなわち「魔界」へと変わりつつあるのだという。
勇者として、それを見過ごすわけにはいかない。
何とか手立ては無いものか…と考える僕に、お供の彼、クーイが情報をくれた。
「勇者様、先刻私がこの土地の魔力の流れを調べたところ、
膨大な量の魔物の魔力が一箇所に集まっている場所があるようです。
この土地がまだ魔界に変わっていないのは、そこに魔力が固まっているせいだと
思われますが…、もしその場所の魔力が溢れ出したりしたら、おそらく一瞬で……」
「なるほど…よし。行こう!」
「…どこにですか?」
「もちろん、その魔力を何とかしにだよ!」
「……そう言うとは思ってましたよ。しかしその前に、この村で休んでは如何ですか?」
「休んでる暇なんてない!いつ魔界に変わってもおかしくないんでしょ?
魔物達の思い通りになんてさせるもんか!」
「しかし、この村に着くまで長かったでしょう…
休めるときにしっかり休んでおかないと、冒険に差し支えます。
その魔力溜まりの中に、強力な魔物がいる可能性もありますから。
万全の体制で挑まずに力尽き、みすみす魔物に殺されてからでは遅いのですよ?」
「う………わかったよ。今日は宿屋に泊まろう。」
クーイはすごいリアリストで、僕の行動をいちいち制止してくる。
それだけに、彼の言ってることはいつも正しいんだけど…
もうちょっと、僕のような熱いハートを理解してほしいな。
なんてことを考えている間に、僕らは宿屋に到着した。
「おお、こんな村に勇者様が来てくださるとは…」
「どうもご主人。部屋は空いていますか?」
「ええ、空いております。この先の土地の魔物達のせいか、
最近は村にめっきり客が来なくなって、この宿もいつもガラガラですわい。」
「話は聞きました。私達も明日、その土地に向かってみます。」
「ええっ!?イヤイヤイヤ、あそこは危険ですぞ!
最近、見たことも無い魔物が現れたという噂もありますし…」
「僕達はそれでも行きたいんだ。
魔物の侵略も止められないようじゃ、勇者じゃないからね!」
「それは心強い…!勇者様、どうも有難うございます!!」
そう言うと店主は、クーイの手をとった。
「あ…、申し上げにくいのですが、勇者は私ではありません。このちっちゃい方。」
「なんと、これは失礼いたしました…」
「ちっちゃいって言うなァァー!!」
「はいはい、すみません勇者様。それでは店主さん、部屋を二つお願いします。」
「えぇ?一つでいいよ…」
「いや、ここは二つでしょう。幸い、お金は十分にあります。
一人きりの方が、集中して休めるでしょう?」
「……うん、そうだね。」
「…?、どうかしましたか?」
「え、いや、クーイってドケチな癖に、なんでか宿屋ではいつも部屋二つ取るから…」
「宿は休むためのものですから。私なりに効率を考えた結果です。」
「…そっか。」
「部屋は二つでよろしいですな?それではご案内いたします。」
その夜僕達は、それぞれの部屋でゆっくり休んだ。
そして次の日出発し、その魔力溜まりの洞窟にたどり着き、現在に至るというわけだ。
「とりあえず入ってみようよ。」
「そうですね…、しかし相手は、卑劣かつ狡猾、残虐な魔物。
何があるかわかりません。くれぐれも警戒を怠らぬよう…」
「わかってるよ…」
だけど、僕らが洞窟に入ってしばらく進んでも、魔物一匹見当たらない。
「う〜ん、ただ暗いだけで何にも無いみたいなんだけど…」
「それでも、魔力はここに集まっているんですから、必ず何かはあるはずです。
もしかしたら、他の魔物に頼る必要も無いほどに強力な魔物が居るのかも…」
「もしそうだとしても、僕らには神様がついてるんだ。君の強力な魔法だってある。
何度も修羅場をくぐってきた僕らが、そう簡単に負けるはずないよ!」
「だといいのですがね。………むッ!?」
「どうしたの!?」
「何か来ます!」
暗闇の中から現れたそれは、雫が滴る真っ黒な球体に跨った、
裸の女の子だった。背丈は僕とそんなに変わらない感じかな…
何だろう、あんな魔物見たことも無いし、見たという人の話も聞いたことが無い…。
それでも、僕にも感じ取れるくらいに強い魔力を感じて、直感した。
間違いない。魔力溜まりの核はこの魔物だ。
そう思っていると、魔物は黒い玉から触手を伸ばしてきた…
どうやら向こうは臨戦態勢らしい。
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