魔王歴20XX年──
魔王と魔物娘達が世界全土の支配を成し遂げてから、さらに長い年月が過ぎた。
世界を支配し、人の世界を守るべく抗っていた主神も、とうの昔に一人の魔物娘となってその座を降り、愛した男と共にいずこかへ去った。
かつて神が定めた世界の法則は完全に書き換えられ、魔物娘からも男児が生まれるようになって久しく、魔王夫婦の夢見た“人間と魔物娘がひとつの種族へ統合された世界”はついに完成を迎えたのだ。
しかし、世界はそこで満足して歩みを止めたりはしない。人と魔物娘…否、”人類”は、平和の中でゆるやかに、しかし際限なく文明を発展させ続け、ついには空の彼方に輝く、星の海へと至る技術を手に入れたのであった。
…だが、いい事ばかりでもない。
いや、いい事ばかりありすぎるのも考えものと言うべきか。
世界が平和になったとはいえ、魔物娘の際限なき愛と性欲にブレーキがかけられるわけもなく…産めよ増やせよ地に満ちよと、人々は引き続きこぞって子作りに励み続けた結果、どこまでも広大であったはずの世界は、いつしか文字通り人々で満ち、手狭になりはじめていたのである。
『異界』の数を増やして対応しようという声もあったが、自分達が今いる世界に存在する、まだ見ぬ場所への期待を寄せる者も同じほどに多かった。
人類が新たなフロンティアを求め、星の海へと漕ぎ出す時代が到来したのだ。
『6:00。ルフィア様、起床時間です。ルフィア様、起床時間です』
「…んん……」
無機質な合成音声のアラームとともに、ルフィアは薄目を開ける。
まず目に映すのは、とうに目覚めている最愛の人、グレゴリーの顔。数百年以上過ぎても変わらぬ、そして何より大好きな光景。
──しかしそれ以外の光景は、何もかも変わっていた。
「おはよう、ルフィア」
「ふぁぁぁ〜……」
『スキャン終了。本日のバイタルも異常なし、健康です』
今の二人が目覚める寝室は、ベッドはおろか、壁・床・天井に照明、全てが真っ白の部屋だった。窓さえも存在しない。
一見して、人間的な温かみを感じられないような無機質な空間だが、これは二人の要望によるものだ。余計な情報を一切排し、ただひたすら伴侶の表情や肉体に溺れられるように、と。
この場所が、ルフィアとグレゴリーの新たな家…その寝室であった。
『地上式睡眠モード解除。注水を開始します』
合成音声とともに、部屋に水が注がれる。
もしもこの場に何も知らない者がいたとしたら慌てふためくだろうが、言うまでもなく、水中こそが本来の二人の生きる場所だ。この寝室以外にも、家の中は基本的に、すべて水で満たされている。むしろ昨夜が特別で、地上の感覚のセックスを久々に味わいたいとして寝室から水を抜き、空気と重力をONにしたのである。
「うふふ。地上プレイもたまにはいいね♪」
「ああ。もうすぐ上陸だろ?地上の感覚も取り戻しておかないとな。
…まあ、地上プレイがしたかったのもそうだけど」
部屋が水で満ちるまで少し時間があるので、その間にルフィアはグレゴリーの朝勃ちペニスを咥え込む。数百年続けられてきたモーニングルーティーンというやつだ。
いつものように、グレゴリーの朝一番の精を、喉奥でしっかりと受け止め嚥下したところで…ちょうど部屋も水で満たされ、扉のロックが解除された。
『15分後に朝食の準備が完了します。洗顔をお済ませください』
寝室を出て、隣の洗面所へ。
二人が出てきた寝室の扉には、『寝室 兼 ジェネレーター』と書かれていた。
そう。ここは夫婦の寝室であり、新たな家の動力源。毎晩の夫婦の交わりから溢れ出す魔力で、この家の設備全てを動かすエネルギーをまかなえるようになっている。便利な時代になったものだ。
…感慨にふけっている内に身支度は済み、ダイニングへ泳ぎ出す。
二人が着いた頃には、もうすでに、食卓には二人分の温かい朝食が並んでいた。
『お召し上がりください』
「いつもありがと♪いただきます!」
「ありがとう。いただきます」
『感謝の言葉は不要です。ですがこちらこそ、いつもありがとうございます』
貯蓄こそあれど、二人はあくまで庶民であり、使用人など雇った事はない。だが、きっとこんな感じなのだろうと二人は思う。
だから二人は、人に接するような感覚で、家の中のすべてを管理してくれるコンピューター、そしてそこに搭載されたAIに対応し、感謝と敬意を忘れないように心がけている。
「うん。また美味くなったんじゃないか?」
『ルフィア様が料理をなさる都度、データを取得・蓄積しておりますので』
「つまり、どんどん私の味に近づいてるって事かぁ。
…そのうち追い抜かれちゃうかも?」
『AIは再現は可能ですが、追い抜くことは不可能です
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