それはグレゴリーとルフィアの二人が、初めての『大学園祭』を楽しんだ数日後。
学園の秋は大規模なイベントが盛り沢山で、学友たちもすっかり、次なるイベントの話と準備で持ち切りだった。
「え…もしかしてハロウィンって、“凝視座の夜”のことなのか!?」
「こんなにぎやかに準備するなんて…」
そんな中で、この二人はまたもやカルチャーショックを受けていた。
「…?そっちじゃ、どういう風に過ごしてたの?」
「そりゃあ、子供が悪霊に連れてかれないように、目立たないボロ服着て、教会に集まって、やり過ごす儀式するんだろ?オレ達も散々おどかされて…」
「あはは!悪霊なんていないいない。お化けは出るけど、ウチらと全然変わんないよ」
「お化けは出るの!?」
死んだ者は二度と帰らない。それが人間界の常識だ。
万が一、死者が現世を歩くような事があれば、それは生者を死へと引き込む魔性の存在であり、鎮め、遠ざけ、関わりを絶たなければならない…グレゴリーとルフィアはそう教えられてきた。
いまや二人は、魔物がどうやら悪いものではないらしいと知っているが、それでも、死人への恐怖や忌避感は捨てきれなかった。
「世界中の魔物がみんな魔物娘になったっていうなら、
本に出てくるゴーストとかヴァンパイアとかもそうなのは道理だけど…」
「実感わかないよな…。悪霊ってのも、なんだかんだで見た事ないし」
ただ、学友たちが誰も怖がっておらず、むしろ嬉々として準備をしているからには、おそらく本当に平和なイベントなのだろう。
町はカボチャでできた明かりやクモの巣など、やや不気味ながらも可愛らしい飾りつけにあふれ、町の人々も、一般参加の出し物や出店の準備を進めていた。
まるで、もう一度大学園祭を執り行うかのような盛り上がりようだ。
「大学園祭といえば…町中の、あの白いパビリオン。大学園祭が終わってもそのまんまだよね。
なんでだろう…お化けに展示物を見もらったりするのかな?」
「んー…顔を描いて、お化けに見立てた飾りにするとか?」
「ふふふ。それはちょっとチープじゃない?」
それからほどなくして、教師たちから新入生向けにイベントの説明が行われた。
ハロウィンの日には、死者の世界をつかさどる『生と死の女神ヘル』の力が現世にあふれ出し、未練を残した多数の死者がアンデッドとなって蘇る。
魔物娘の暮らす町では、彼女たちと同じ仮装をしたり、お菓子を配ったりして、蘇ったアンデッド達を歓迎するのが習わしなのだという。
「そしてもちろん、この学園都市も例外ではありません。
海の女神ポセイドン様とて全能ではなく、海には今も、沢山の魂が眠っています。
彼女達が、幸せな気持ちで二度目の人生を始められるように、皆さんの協力を…」
海に落ちた者はみな、海に暮らす魔物娘達の手で助けられる。あるいは人間の女性であれば、魔物娘ネレイスとなる。魔王に与した海の神ポセイドンの力が、あまねく海を満たしているおかげだという。
だが、海で命を落とす者がいなくなったわけではない。代表例が、海上での病気、海戦、あるいは海賊の襲撃などにより、海に飲み込まれる前に死する者だ。
海というのは、依然として危険が伴う場所なのだ。
港町に住むルフィア達も、航海に出たきり帰らなかった海の男を何人も知っている。
その内の一人の妻であった、グレゴリーの家の近所に住むおばさんが「どこかで別の女でも作ってんだろう。帰ったらぶっとばしてやる!」そう言って、気丈に笑っていた様子は忘れられない。
(もしかしたら、おじさんも帰ってきたりするんだろうか?)
そうであるなら…きっと素敵なことだろう。
グレゴリー達にできる事は飾りつけの準備くらいだが、お互いに顔を見合わせ、きっと祭りを成功させようと決め合った。
そして、あっという間にハロウィン当日。
日が沈み始めた頃、水中でも燃える魔法の火を使った灯篭が流された。
アンデッドは通常、光を嫌うが、暗い海の底で蘇ったばかりのアンデッドならば、この明かりを頼りに学園都市まで誘導されてくるという。
それを待つかたわら、学生達は体育館や講堂で、服飾や美術系のクラスが総出で行う仮装の着付けと、より死者らしくするためのメイクを受けるのだった。
「貴女は…マミーちゃんなんてどう?」
「…ってそれ、包帯だけじゃないですか!?恥ずかしすぎますよぉ…!!」
「オレも似合うとは思う…いや、正直見たくてたまらんけど、ほかの男に見せたくないし、この祭りの中じゃあちょっと…」
「う〜ん、そういう事ならしょうがないか」
「…ただ、マジで似合うと思うんで、お祭り終わった後に個人的に頼めないですか?」
「レッくん!?」
結局、二人はゾンビの仮装に決めた。
自然に
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