色とりどりの明かりが、金と珊瑚で彩られた大広間を妖しく輝かせる。
まるで貴族の舞踏会のような煌びやかさだが、広間のそこかしこでは、勝負の緊張が空気を…否、“水”を張りつめさせている。
ずらりと並んだテーブルで、無数の人々がギャンブルに興じているのだ。
ドリンク片手に真剣な表情で勝負に臨む客達の周囲では、黒いベストの従業員が悠々と泳ぎまわり、舞台の上では人魚の踊り子が、宝石のような鱗と煽情的な肢体を見せつけるように、身体を揺らしながら水の中を舞い踊る──
ここは、『竜宮賭場 うたかた』
ジパング近海の海底に多数存在する、水中娯楽都市“竜宮城”のひとつだ。
竜宮城の主である魔物娘“乙姫”は、派手な娯楽を愉しみながら日々を過ごし、また客人を招き愉しませることを何より好む種族である。
だが、タイやヒラメの舞い踊り、四季の風景を見られる扉…そういった、竜宮城の伝承として度々出てくるものを全ての乙姫が好むかといえば、当然ながらそうではない。
どのような娯楽を好むかは、人それぞれ。
そんな中で、この竜宮を統べる乙姫は「夫との時間の次に、賭博こそが至上の娯楽である」として、自身の竜宮全体を、古今東西のギャンブルを集めた和洋まぜこぜの一大賭博場として築き上げたのである。
「では旦那様、いかがなさいますか?」
「ッ……チェックで」
「かしこまりました。奥様は?」
「レイズ、5枚」
そんな場所で、グレゴリーとルフィアの夫婦は、ポーカーのテーブルに座っていた。
言わずもがな二人とも、普段は賭け事になど縁のない堅実そのものの人物だが、何度目かのジパング観光の後に偶然この都市に立ち寄る機会があったため、宿泊がてら遊んでみることにしたのだった。
「では、お出しください」
「くそ…ワンペア」
「フルハウス!」
「おおっ!?」
「さてさて、こちらは…」
緊張が走る。
「…ストレートですね。おめでとうございます」
「やったよレッくん!」
「ほんと強いなルフィア…」
ルフィアの前に、チップがうず高く積まれていく。
「さて、もう一勝負なさいますか?」
「はい♪」
「オレは降りたいな…。
こういうの勝てる気がしない。残りチップもやばいし…」
「えー、一緒にやろうよぉ。無くなっても分けてあげるから…」
「…それが恥ずかしいんだよ、男として。
遠くへは行かないから。な?」
むくれるルフィアを尻目に、グレゴリーはテーブルを降り、負け分を取り返せるような別のゲームを探す。
ジパング発祥のギャンブルは勿論のこと、世界各地のカードゲームにダイスゲーム、闘技場、魚のレース、霧の大陸で生まれた『マージャン』、さらには遠いサイーダ島の機械技術で作られたという『スロットマシン』など、実に多種多様なギャンブルが取り揃えられていて、つい目移りしてしまう。
(いや…ダメだ。もっと読みだの駆け引きだのが絡まないものは…)
残りのチップ枚数がグレゴリーを焦らせる。
もちろん、賭けの成否に生活が懸かっているなどというわけではない。
この賭場は、入場料を支払うことで貸し出される専用のチップを賭けてギャンブルを行うシステムであり、追加でチップを借り入れるのも限度がある。少なくともこの賭場では、ギャンブルで身を滅ぼすようなことが無いように配慮がなされているのだ。
…だが、この賭場の主である乙姫は「それでは緊張感が足りない」として、“敗北”が決定的になった者に対する、とあるペナルティを設けた。
(カラン…カラン……)
「!」
不気味に乾いた鈴の音が広間に響く。
楽団が奏でる軽快な音楽と喧騒から一転、周囲は静まり返った。
『これよりショーを開始いたします。皆様、ぜひご覧ください…』
『い、嫌だ…いやだあああああッ!!!』
“ショー”を執り行う魔物娘に引きずられ、中年の男がステージに上げられる。
静寂を切り裂く絶叫が、客たちの心を一層かき乱す。
(…あんなショーに出されるなんて、絶対にごめんだ)
全てのチップを失った者、ビジターエリア(注1)でのイカサマを含む各種の迷惑行為を働いた者、開始時に借りたチップを一定の返済期限までに返せなかった者などが、ペナルティを受ける。
それが今、グレゴリーのすぐ近くを含め、施設の各所にあるステージで執り行われている『仕置舞台(ペナルティ・ショー)』(注2)であった。
『うふふ…さあ、いい声で泣き叫んでちょうだいね?』
『ゆ、許してくれ…こんなの無理だ…ひどすぎる…』
衣装を纏わされ、身体を拘束された中年男が、悲痛な声を漏らす。
係員たちは淡々と、その男を責め立てるための数々の器具を並べていく。
いかにも残酷な見世物が始まるかのような雰囲気だが…無論、魔物娘の作った施設だけあって
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録