モーリスは、思わず聞き返す。
「おばさん…どういう事?おじさんがいなくなったって…」
「あの人、前に飲みすぎて、フラフラどこかへ行っちゃったことがあったでしょ…?」
「確かに、そんなことあったな…
あれ以来、あんまり飲ませないようにしてたんじゃなかったんですか?」
「それが、ドラゴニアのお酒って、見た目よりも強いみたいで…
ちょっとならいいと思って、好きにさせてたんだけど、気付いた時にはもうベロベロで…酔い醒ましをもらいに行って目を離した時には、もう…!」
「二人は山の中腹辺りの店で食事をしていたらしい。
当然ながら、ガイドの竜騎士も一組ついていて、少し離れた席から二人を見守っていたんだが…隣の席にいた別の観光客の子供が、突然熱を出してしまったらしくてな。
介抱と医者を呼ぶために、やむなく目を離してしまったそうだ。
これを責めることはできない」
「そうだったんですか…」
「道なりに下りていけばこの竜翼通りだから、万が一と思って、君たちの所に来ていないか訪ねたんだが…やはり居なかったみたいだな。
もちろん、ここに来る途中で迷った可能性もあるが…もしかすると、より上の方へ行ってしまったかもしれない…」
「の、登ったって言うんですか!?あの山を!」
上の方は雲に覆われてよく見えないが、見える範囲でも、山の険しさは…そして、十分な備えなしに登るのは危険であることはすぐにわかる。
「竜翼通りからの登山道がいちばん安全だけど…それでも中腹からは、酔っ払った人がひとりで登れるような場所じゃあないよ。
どこかでギブアップして休んでるんじゃないかな?」
「だとしても、それがどこか…だな。
ドラゴニアの山々は、天然の迷宮と言われるほど険しく、また迷いやすい。特にこの中央の山は、その総本山と言ってもいい。
ガイドの竜騎士のことといい、他の竜に見つかって止められなかったというのは、まったく運がいいのか悪いのか…」
「そんな…それじゃあ、あの人は…!?」
「我々が、必ず救助します。
奥さん、旦那さんがいなくなったのを確認したのは、だいたい1時間前でよろしかったですね?」
「はい…お店に柱時計があったので、覚えています」
「大人の足で行ける範囲は…大体あの辺りか。
いま妻が呼んでいるレンジャー部隊が合流し次第、すぐに捜索いたします。
見つかるまで、あちらの詰所でお待ちいただけますか?」
だがその提案に、おばさんは首を振る。
「あの…同行させていただくことは、できないでしょうか?」
「…危険ですよ?」
「わかっています。
ですが…元はと言えば、ちゃんと夫を見ていてあげられなかった私の責任です。そのために夫が危険な場所にいるかもしれないのに、黙って待っているなんて、あまりにも…
お願いします。何か、お手伝いをさせて下さい!」
「…旦那さんを、大切に思っておられるのですね。
ですがまずは、どうかレンジャー部隊をお待ち下さい。
それまでに、よく考えて…それでも心が変わらなければ、私からも掛け合ってみます」
しばらくして、レンジャー部隊がディンの母とともに駆け付けた。
鍛え抜かれた体を持つ竜騎士とワーム達が、真剣な顔で一糸乱れず整列する様子を見て、おばさんは少しだけ安心感を覚えた。
「ワームたちは嗅覚が鋭く、また高い腕力を持ち、障害物の排除に長けています。
遭難者は、空から探すよりも、彼女らが地上で探すほうが見つけやすいのです。
…それでは奥さん、どうされますか?」
「……行きます!」
おばさんの決心は堅かった。
ディンの父は頷き、おばさんを交えて部隊長らしき人物と相談し始める。
と、そこに…
「レンジャー隊…遭難者が出たのか?
…って、おばさん!?いったい何が…!」
「あ…兄貴!?どうしてここに…!」
飛んできたのは、兄ジョージと、それを背中に乗せるパールーであった。
地面に降り立ち、二人は事情を聞く。
「式の準備がようやく終わったから、お前と話がしたいと思って探してたんだが…
そしたらここでの騒ぎが見えて、レンジャー部隊がいて、お前たちもいた。
…いったい何があったんだ?」
「向かいのおじさんが、酔っ払ってどこかに行っちゃったんだよ!これから探すんだって…」
「ああ、そんな癖あったな…。
あの人、深酒すると小さい子供みたいになっちゃうんだよな。
村ならまだよかったのに…こりゃ禁酒だな、おじさん…」
「禁酒になる前に、このまま見つからなかったら…!」
「落ち着けよ。レンジャー部隊は優秀だ、必ず見つかるさ」
おばさん程ではないが、モーリスも大いに心配していた。
そんなモーリスを安心させようと、ジョージは肩を叩く。
「モーリス。そのおじさんは、おそらく無事だろう。
ドラゴニアの自
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