お出かけの章

「…う〜ん……あいが…ぎっさり…?」

 遠くから、朝を告げる鐘の音が響いてくる。
窓から射し込む朝日の光に顔を照らされ、モーリスは眠りから覚めた。

「…あれ……ええと……ここは…?」

木目の、知らない部屋の天井が見える。

(…なんだろ…?夢かな?…)

 …と思って混乱したが、どうやら夢ではない。
寝起きでぼやけた頭のなかで、これまでの事を思い出していく。

(そうだ。昨日から、この変わった宿に泊まってたんだった…兄貴の結婚式と、ついでに観光しに来て…)

 オンセンなるものに浸かって、ここはフートン?とかいうフレームのないベッドの上で…
それから、なんだか夢を見ていた気がする。
とても気持ちがいいような、でもとても悪い事をしたような、何かを奪ったような、奪われたような、夢を……

「ガオオオオォ〜〜〜ッッ!!!」
「うわあぁぁああああ!!?竜!?」

 あわてて布団から飛び起きる。

「そうだよー♪」

 モーリスの横には、全裸で横たわりケラケラと笑っている少女…ワイバーンのディンがいた。

「ゆ……夢じゃ……ない…」
「えー、夢だと思ってたの?あんなに激しく愛し合ったっていうのに…♪」
「愛し合ったというか…そ、そっちが一方的に…!」
「一方的とは失礼な。最後の方は、キミも自分から腰振って、あたしの敏感なところを散々突き上げてくれたでしょ?忘れたの?」
「うぅ…」

 おぼろげだが、忘れていたとは言いがたい。というか、いま思い出してしまった。

「こんなの、イタズラってどころの話じゃないよ…」
「まぁそうだよね。セックスだよね♪」
「そうだよ…
 …しちゃったよ、セックス…しかも竜と…会ったその日に……結婚前なのに…
 最低だ、オレ……」
「大丈夫!ドラゴニアじゃあ普通だから!」
「オレにとっては普通じゃあないの!!」
「でも、キミのお兄さんとお義姉さんも、毎日シまくってるよ?
 噂だけど、最近だと君のお兄さん、お義姉さんをロープで縛って一日中…」
「き、聞きたくない!兄貴のそんな秘密!
 それに、兄貴って騎士でしょ!?訓練とかは!?」
「それが訓練!」
「そんな訓練あるかーッ!!!」

 起き抜けに大声でツッコミを入れる羽目になってしまうモーリス。
いきなり疲れたが、目だけは覚めた。

「はぁ、はぁ……いくらなんでもおかしいよ、この国…」
「まあまあ。住めば都っていうよ?
 それに今日は、そんなドラゴニアの素敵なところを沢山案内してあげる予定なんだから。
 朝ごはん食べて体洗ったら、さっそく行こ!」
「えっ…この格好、どうするの…?
 …うっ!?そういえば……く、くさい……すごく生臭い…!」

髪はぐしゃぐしゃ、上半身は汗まみれ、下半身はいろんな体液まみれで、とても服を着たり、外に出られるような状態ではない。

「あたしはけっこーいい匂いだと思うけどな。
 でも、心配はご無用!こういう魔物の国の宿には、だいたいルームサービスが…ホラ!」

 戸口の横には、引き出しがついていた。
それを引き開けると…中には、温かい朝食のお膳が二人分に、身体を拭くための布の入った水桶、そして替えの浴衣が入っていた。

「おお〜……」
「壁の向こうの戸棚と繋がってるんだよ。
 魔物の国の宿屋では、泊まったお客さんがナニをするかはよ〜くわかってるから。生活の知恵ってやつね♪」
「入り口の横の、鍵のかかった戸棚…何かと思ったら、このためだったのかぁ。
 …ん?そういえば魔物の国って、まるでドラゴニアの他にもそういう国が…」
「さ、朝ごはん冷めない内に、パパッと体拭いちゃおっか!」
「あ、うん!」
「それとも、あたしが拭いてあげよっか?」
「それじゃあ絶対パパッと終わらないでしょ…」

 急いで全身を拭い、浴衣を着替え、朝食に取りかかる。
焼き魚に、昨晩も食べた麦のようなもの。昨晩のものと具が違ううす茶色のスープと、煮込まれた根菜。
身体は拭いたものの、昨晩の行為の残り香が部屋に染み付いていたが…焼き魚の香ばしい香りと、なんだか落ち着くスープの香りが強いおかげで、あまり気にならなかった。

「食べ方は難しいし、味も薄めなんだけど、美味しいなぁ…」
「女将さんが住んでた東の国って、世界の中でもすっごく料理の文化が発達してるんだって。
 味が薄めでも、食材の美味しさが引き出されてるから美味しいんだよ」
「へぇ〜…食材の美味しさか…」
「料理の文化のすごさは、それだけじゃあないよ。
 ちょっとでも食べたら死んじゃうような毒のあるお魚も、毒のある所だけ取って食べちゃうとか…」
「なんでそんな魚食べるの!?」

 ディンは本当に色々なことを知っており、話を聞くのがとても楽しい。
そのためか、時々されるイタズラや昨晩の出来事があっても、モーリスは彼女の
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