オレンジゼリー

(……)

 今あたしは、なんだか小さくてツルツルしたものの中につめられて、
そのうえ、紙みたいなので出来たハコの中に入れられて、どこかに運ばれてる。

(たいくつ…)

 別に、悪いニンゲンにつかまってるワケじゃない。
この中も、いたかったり、苦しいわけでもない。ちょっとせまいけど、それはあんまり気にならない。
でも、なんにもないし、なんにもできないから、ものすごー…く、たいくつだった。

(…でも、ガマンしなきゃ。オトコをつかまえるためだもんね。)

 この中で待ってるだけで、オトコの所までつれてってくれる。
そしてオトコをひとりじめ出来る!なんておトクなハナシなんだろう。
それに、その話にのったあたしも、なんてアタマがいいんだろう♪

(うふふふふ…。あの白くてすごそうなマモノさんには、かんしゃしないとね。)

 さあ、待ってなさい。あたしのオトコ!





「…はぁ〜あ。いつになったら調子が戻るやら…。」

 試合を終えて自宅に戻り、プロ野球選手(捕手)である俺『茂仁田 江歩』(モニタ エフ)は、ガックリうなだれていた。

「まあ、自分がまいた種なのは分かってるんだが…。」

 こうなったのもついこの前、チームメイトと飲みに行った際に、
とんでもない失敗をしてしまったからだ。
何軒も飲み屋をハシゴした挙句、意識が飛ぶほど泥酔してしまい、
その果てに、何を思ったかビルの3階からパンツ一丁で飛び降りたらしい。
幸運にも選手生命に関わるほどの怪我もせず、スキャンダルにもならなかったが、
それでも半月ほど病院で過ごすハメになってしまった。
しかもようやく退院できたと思ったら、怪我の後遺症なのか、今度は未曾有の大スランプに陥ってしまった俺である。
今やスタメンからも外され、このままでは一軍に居ることすら危うい…。

「こんな事になっちまったんだ、脱出するためにも、やっぱ酒やめないと…
 …って言ってやめられたら、そもそもこんな目にもあってないんだってーのな…ハァ。」

 アル中とまでは行かないが、無類の酒好きと周囲でも評判の俺だ。
酒で失敗したと分かっていても、そこに酒があれば飲まずにはいられない。
ほかに夢中になれるような趣味も持ってないしな…。

「…とりあえず、いつものやって、シャワー浴びて寝るか…。」

 テレビを横目に見ながらの、腕立て腹筋等の自主筋トレ。
小学生の頃から続けている、家での毎晩の日課だ。
スランプともなれば、ますますおろそかに出来ない。

「…73…74…75……」

 テレビには、丁度ニュース番組が映っている。
ちょうど野球の話題になり、各球団の順位発表が出ていた
自分のチームの順位は、相変わらず低い。

「…優勝してえなぁ…。」

 プロ野球選手であるからには、やっぱり優勝・日本一を経験したい。
そしてあわよくば、その時には、俺がそこまで導いたヒーローでありたい。
プロ選手なら誰もが持つ夢だろう。俺もそうだが、今の体たらくじゃなぁ…。

「…もっと努力しないとな。」

 筋トレを再開する。効果は変わらないだろうが、さっきよりも少し勢いよく。
そのうちにスポーツニュースは終わって、CMを挟んでトーク番組に変わり、
それが後半あたりに差し掛かった頃に、俺の筋トレも終わった。

「明日から、もう少し増やすかな…。」

 汗をかき、適度に疲れた俺の体は、疲労と渇きを癒せるモノをよこせと言ってくる。
すなわち、酒。
今、冷たいビールでもガーッと流し込んだら、どんなに幸せになれるだろう…
あ、ビールじゃないが、今ちょうど、もらい物の缶の日本酒がある。あれを…

「…って、ダメだダメだ。さっき決意を新たにしたばっかりだろ!」

 無反省に酒を求める自分の心に喝を入れる。少なくとも今日は飲まないぞ、今日は…

「…おっと。そういえば、ゼリーがあったんだった。」

 そこで、この前偶然見た通販番組で購入した『オレンジゼリー』の事を思い出す。
勝負事に強くなるとか、強い意思がつくとか、何度でも食べられるとか…はっきり言って、すごく胡散臭い効能を謳っていたが、司会をしていた二人のおねーちゃんがあまりに美人だったので、それにつられて、つい買ってしまったモノだ。

「あれ食うか。酒の代わりに。」

 美味かったらよし、不味かったら、自制できない自分への罰だ。





 あたしはあいかわらず、ツルツルしたものの中。
ちょっと前に紙のハコから出されて、開けてくれるのかなー、と思ってたら、
なんとそのまま、まっくらで、しかもすごくさむい所に入れられた。
まったく!べつにカゼなんてひかないけど、このアタマのいいあたしに対して、なんて『シウチ』かしら!
ここから出たら、何日も何日も、みっちりしぼってやるんだから!
そうだ。ここから
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