「……」
ある家の自分の部屋にて、ベッドに突っ伏し、深く落ち込んでいる少年が一人。
昼頃、ふらふらと学校から帰宅し、それから半日こうしている。時刻はもう真夜中だ。
「…くそっ…」
それまで全く動きが無かった彼は、一言、搾り出すように呟いた。
「ぁぁぁ、くそっ、くそっ、くそぉぉぉッ!!」
それを皮切りに、彼は声を限りに叫び、拳を、頭を、狂ったようにベッドに叩きつける。
一発叩きつけるごとに、目から涙がこぼれていく。
「何だよ畜生…何なんだよ!!」
彼のこの憤りと奇行の理由を簡潔に説明するならば、
『好きだった女の子に告白し、そして恋破れた』という事である。
しかし、その破れ方というのが、尋常ではなかった。
「『もう好きな人がいる』とかなら、まだ納得できた!できたのに…
何だよくそっ、あんな、あんな奴だったなんて…!」
涙と怒りで顔をくしゃくしゃにしながら、腕やワキの下に鼻を近づけ、匂いを嗅ぐ。
ひとしきり嗅いだ後、彼は再びベッドに突っ伏して大泣きに泣き、
いつしかそのままの姿勢で、泣き疲れて眠っていた。
彼は中学校入学と同時に、友人に誘われて、剣道部に入部した。
元々運動はあまり好きではなかったし、サボりはせずとも、やる気も大してなかったが…
二年のクラス替えの際に、ある少女と出会い、彼のやる気は激増した。
とても可愛らしくていい匂いで、友達も多い素敵な少女。
それが、彼が一目ぼれし、つい先程まで想いを寄せていた相手であった。
「ヒロ…お前最近、物凄いやる気で練習してるよな。」
「おう。それがどうかしたか?」
「いや、いい事だと思うけどさ。一体どうしたんだ?いきなり。」
「な、な何だよ。なんてことないって。」
「何か、はっきりした目標でも持てたとか?」
「目標……ああ、そうかも。
お前の言うとおり、目標ができたんだよ。詳しくは言えないけど、スゲーやつ。」
「そうか…よかったな!頑張ろうぜ!」
「おうッ!」
彼の思いはただ一つ。
『大きな試合に出られるほどの選手となり、
自分に箔と勇気をつけた上で、彼女に告白する』
何しろ相手は、何人もの男子が狙っているとも言われる美少女。
対する彼は、ルックスが良いわけでもなく、体型はむしろ標準よりやや太め。
夏場はタオルを決して手放せないような汗っかきだし、会話が上手なわけでもない。
それでも彼女と付き合いたいと切望した彼にとって、これだけが淡い望みだった。
恋する男のなせる業か、彼は他の部員の何倍もの努力を重ね、
2年生、しかも素人に毛が生えた程度の状態からというスロースタートながら、
彼はメキメキと、同学年に負けない程の実力をつけていく。
そして、ついに3年夏の大会、彼にとっての引退の舞台で、友人と共に団体部門に選抜。
それなりに多くのチームが出場する中、彼は大活躍し、
準優勝という、十分評価に値する戦績を挙げた。
「優勝や全国出場は出来なかったけど…やったな、ヒロ。
一年ちょっとでここまで出来るなんて…ホントすげえよ、お前。」
「いやいや、お前が居なきゃ、あそこまで行けなかったさ。
でも…ありがとな。…これなら、十分いける筈だ。」
「いける?」
「あ、いや、なんでもない。」
そしていよいよ一昨日…夏休みに入る終業式の前日、覚悟を決め、告白を決行した。
この日に備え、間違いなくこれまでの学校生活の中で一番真剣に考え、
悩んで悩みぬいて、渾身の告白の文句を考え出し、
緊張に折れそうになる心を必死に奮い立たせ、告白するには自分的に最高の、
それでいて無闇にキザったらしくない(と思っている)最高のシチュエーションで、
最高に想いを込めた告白を、放課後、とうとう彼女に伝えた。
「…う、うん。ごめん…明日まで、考えさせて。」
ハッキリしない返事だったが、その時は、もはや彼女が了解してくれる未来しか見えず、
快くそれを許し、ドキドキしながらも軽い足取りで帰宅し、興奮して寝付けなかった。
…だが。
翌日のホームルーム終了後の短い休憩時間、小用を足しにトイレに行った帰り。
教室前に立ったとき、偶然、彼女と数人の女子達が話しているのが聞こえ…
聞いて、しまった。
「ねえねえ、告白されたってホント!?」
「ん?まあ、告白っちゃあ告白…かな。」
「同じクラスの…広上だっけ?あの剣道部の。どう?オッケーする?」
聞いてしまったのだ。彼女の言葉を。
「ええー?いやー…ちょっと、完全ムリかな?」
「えー、部活で凄い活躍だったって聞いたよ?有望株じゃない?」
「ダメダメ。それは聞いたけど、そんなこと興味ないし。
大して話したこともないし、顔もアレだし、何よりくっさいしさ。
体も、部活も、あと告白の台詞も。悪いけど私、臭いのだけ
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