前編


「おーい後輩よ、コン迷(コンガラ・ガッタの迷宮)やらせてくれ。」
「えぇー、またッスか?部長。」
「アレは携帯ゲームにしては歯ごたえがあるからな。」
「シュマホあるんだし、部長もアカウント取ればいいのに…」
「パズルは好きだが、お前のように際限もなく金を払う気は無い。」
「ケチめ。」
「いいじゃないか。俺は難しいパズルを楽しめる。
 お前は詰まった面を解消して先に進める。まさにWin-Winじゃないか。」
「まあそうですけど…」

 俺は昔から、古今東西の様々なパズルが大好きだ。
ジグソーパズルに始まり、箱入り娘などのスライドパズル、ロジック、ナンプレ、
知恵の輪にルービックキューブ…どれも数え切れないほど解いてきた。
また、3次元の物だけでなく、パズルゲームも大好きだ。
倉庫番に落ちモノ、某英国紳士のゲームに至っては派生作品まで全制覇してしまう程に。
それら幾多のパズルを見つけては、知恵を絞り、頭を捻り、時には挫折しかけながら、
どうにか自らの力で解き明かしていく…それがたまらなく楽しいのだ。

「…なんだ、今回は3つだけか。」
「俺だって日々成長してるんですよ。」
「このままじゃ満足できないな…。クリア済みのもやらせてくれ。」
「えー、ちょっと待ってくださいよ、そろそろあの子からメールが…」
「メールか他の誰かが来たら返してやるから、そこの白ジグソーでもやってろ。」

 趣味が高じ、大学に入ってからはパズル同好会など作ってしまった。
パズルを買い漁って解いたり、時には自ら作り出したりするのが主な活動だ。
…まあ、たった五人の零細サークルだが。

「あ、他のみんなだったら今日は来ませんよ。」
「何故?」
「えーとそれぞれ、歯医者、バイト、恋人が放してくれない…だそうです。」
「なんだ最後の…爆発しろ。お前もろとも。」
「俺も!?」
「…あ、メールだ…仕方ない、返す。」
「どもッス。どれどれ…おお、やったッ!すぐ返信しないと…」


 その後も後輩は、暗くなるまで嬉々としてメールのやり取りを続けていた。
…結局活動は諦め、ゲームも大して出来ないままお開きとなり、帰宅した。


「ただいま…っと。」

 カバンを無造作に置き、ノートパソコンを起動する。
どうにも消化不良なので、お気に入りのパズル投稿サイトを漁るためだ。
…だが、それも今日に限って不作だった。

「…うー、全くスッキリしない…。パズルがしたい…
 …無いものは無いか。さっさと食べて寝よう…。」

 気が乗らないので、残り物を適当に暖めたり、作り変えたりして食卓に置く。

「…そういや今日はあのクイズの日か。一応見ておこう。」

 クイズ番組はパズルがあってもあまり好きではないのだが、
その日は何としてでもパズルにありつきたくて、テレビを点けた。

『モンスターズ・ミラクル・マーケット!!』
「ん?…番組前にこんな通販やってたか?」

 気にはなったが、別に変えることもないので、そのまま見続ける事にした。
まず目に飛び込んできた司会二人があまりに美人なので驚いたが、それもつかの間。
紹介された商品に、俺の心は一気に引き込まれた。
あまりにも空気を呼んだような商品が現れたからだ。

『今回ご紹介するのは、最新技術をふんだんに使った新世代のパズル!
 『超絶立体パズル THE☆しあわせの箱』ですッ!!』
「パズル!」

 出てきたのは、銀色の立方体。蓋があり、側面に一対の白い手形が描いてある。
高さと幅は共に約50cmらしい。これがパズル…?

『このパズルの特徴は、ズバリ『自分専用』!
 ユーザー登録と簡単な頭脳のテストを行うだけで、
 世界に一つだけ、貴方だけのパズルが作成されるという画期的なパズルです!
 お子様からお年寄りまで、誰でも自分の力だけで出来、
 なおかつ最大限に頭を使えば必ず解ける、絶妙な難易度のパズルを提供してくれます!』
「…それが本当なら、死ぬほど欲しいぞ。」

 俺はむやみに難しい物よりも、そういう絶妙な難易度のパズルの方が好きだ。
まだ少し怪しさは残るが、あまりにもツボを突いてくる特徴に、期待はどんどん高まる。

『本当にそんな事が出来るのか?と思われた皆様の為に、実演いたしましょう。
 私とこちらのリューナさん、それに10歳、20歳、35歳の一般の方三人で、
 実際にユーザー登録と頭脳テストを行い、パズルを作成してみます!』

 その声と共に現れたのは、10歳の少女、20歳の女性、35歳の男の三人。
男はともかく、10歳と20歳の二人は、司会二人に負けず劣らず綺麗な顔立ちだった。

『それでは皆さん、まずはユーザー登録です。
 箱の横についてる手形に、一分間両手を合わせて下さい。』

 言われたとおり、全員が箱に手を当てるのを確認すると
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