こんにちは。こんばんは。はじめまして。
『圭州 椎太(けいす しいた)』と言います。
子供の頃のあだ名は勿論、あの映画にちなんで『シータ』でした。…どうでもいいですね。
突然ですが、貴方の見ている世界は、ちゃんと綺麗な色ですか?
ほら、あの有名なモンスターのゲームで、負けた時『目の前が真っ暗になった』
って言うじゃないですか。そんな感じ……あれ?ちょっと違うか。
じゃあ何だっけ…あ。そうそう、『バラ色の人生』みたいな。
そんな風に、精神的には、どんな色に見えてますか?って事です。
え、俺ですか?俺はですね…
…前は、何もかもが非常に薄い色をした、何とも味気ない世界でした。
まあ、自業自得な感じですけど。
夢も目標も特に無く、ただ流されるままにダラダラと生き、
無理をしないレベルの高校・大学へと進み、
そのままズルズルと今まで来ちゃったんですから、そりゃ味気ないですよね。
でも、そんな中でも、楽しみが一つありました。
それは、文通です。
…文通でした。
そうです。過去形です。
今から、その時の事を詳しく話しますね。
大学に入ったばかりの頃、俺のじいちゃんが倒れて、地元の病院に運ばれたんです。
大した事は無かったみたいなんですけど、しばらく入院って事になって、
そんで家族でお見舞いに行った時、同じ病室に、高校生くらいの女の子がいまして。
その子と仲良くなったらしいじいちゃんに、『この子と文通してみんか?』
って持ちかけられたのが始まりだったんです。
その子の名前は『目芽倉 夏(メカクラ ナツ)』
じいちゃんよりちょっと前に入院したらしい、元気な高2の女の子でした。
好きだったじいちゃんの頼みでもあるし、別に断る理由も無かったんで、
二つ返事でOKして、文通が始まりました。
その日から、色々な事が変わりました。
中学からは、友達同士でも下の名前で、あだ名なんて使う機会はなかったんですが、
彼女の提案で、あだ名で呼び合うことになりました。
彼女のあだ名は『ナッツ』、俺は勿論『シータ』。
最初はバカップルみたいでこっ恥ずかしかったんですが、慣れると意外に悪くないもので、
彼女が何だかとても近しい存在に感じるようになりました。
次に、俺の大学生活が何だか忙しくなりました。
彼女は手紙で、元気だった頃の思い出とか、友だちの事とか、読んだ本の事とか
本当に色々な事を書いて送って来てくれたんですが、
俺はといえば、退屈な講義を受ける以外なーんもやってない、
強いて言えば週に2、3日バイトをするだけという退屈な毎日を送っていたんですが、
彼女の手紙に返事を書いているうちに、さしたるネタも、盛り上がる事も無い、
そんな日常が急に恥ずかしくなったんです。
それを変えたいと思い、ちょっとだけ興味を持っていた文画部に入ったり、
わけもなく毎朝ウォーキングを始めたり、英検や漢検を受けてみたりと
ネタ作りの為に色々な活動に手を出し始めました。
すると、最初は変な義務感の為に仕方なくやってただけのそれらの活動が、
意外に楽しくなっていったんです。
おかげで友だちもかなり増え、忙しくも楽しい、エネルギッシュな生活になりました。
そして、何度も何度も手紙をやり取りしている内に、
いつしか彼女の手紙を心待ちにするようになりました。
いつでも使える電話や電子メールとは違い、手紙にはタイムラグがあるので
『届いて、返事が来るまでのワクワク感』が大幅に違います。
俺も彼女も、それが結構好きだったんです。
もう彼女は、いつの間にか、俺の日常には欠かせない一部になっていました。
そんな、俺と彼女の楽しい文通生活を、もう一年以上も続けてきました。
日が経つ毎に、手紙が来るたびに、それまで色の薄く、無味乾燥だった周りの風景も、
だんだんと美しい色に変わっていったんです。
…でも、そんな生活の楽しさにかまけていたせいか、俺は気付きませんでした。
一年以上も経つのに、何故、彼女の『退院した』という便りが来ないのか。
それどころか、何故彼女の手紙には、入院生活についてや、
どうして入院しているのかが何も書かれていないのか。
バカな俺は、何も疑問に思いませんでした。聞こうとも思いませんでした。
…あるいは、何となく分かっていて、無意識に知る事を拒否していたのかもしれません。
『それ』に本格的に気付き始めたのは、一年経ち、六月に入ったばかりの頃です。
先程も言ったとおり、それまで入院生活の事を何も書かなかった彼女でしたが、
ある日届いた手紙には、いつもの調子の文面の中に、さりげなく
『来週、手術するんだ。』という一文が入っていました。
それを見て、初めて彼女の境遇を少し知った俺でしたが、しかしこんな時に
一体どんな事を書いていいか分からず、ただ
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
8]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録