初春の昼下がり。某県の、少し田舎寄りな住宅街にある一戸建て。
広い空間の中に、額に入った様々な文字が飾ってある、少々不思議な部屋にて。
「あぁ〜…こりゃ駄目だ。クソ…!」
何やら大きな字が書かれた紙を、渋い顔でくしゃくしゃと丸める男。
彼の名は『田月兎 琵居蔵(タゲット ビイゾウ)』書道家である。
普段は看板などを書いたり、子供達に書道を教えて生活しているのだが、
書道教室が休みである現在は、居間の隣にある仕事場にて、
個展に出す為の作品を書こうとしていた…のだが、失敗。
「こんなの字ですらねえ。何かもう…アリの巣だ、アリの巣。ったく…」
気だるそうにそう呟くと、やる気をなくしたのか、仕事場の畳の上に寝転がろうとする。
しかしその直後、郵便受けに郵便物が落ちる音が聞こえたので、
彼は仕方なく立ち上がり、取りに行った。
「どれどれ…?…春雄か。何だって手紙なんて…」
春雄とは、彼の古くからの友人である。居間に行き、封を開けて読んでみると…
『田月兎 琵居蔵様
この度、私達 春雄・梅華の二人は、○月○○日に結婚する事に…』
「………」
彼は古くからの悪友が書いた内容を理解するのに、数十秒を費やした。
「…ああァ!!?結婚だと!?あいつが?」
真偽を確かめる為に、すぐさま電話をかける。
『もしもし?』
「…琵居蔵だが、何だあの手紙!?」
『書いてあった通りよ。俺、来月結婚する。』
「本気かよ!?」
『おう。しかも相手は二十いくらも年下だ。』
「ハァ!?芸能人かよ!?っつうか、どんな奴だ、相手ってのは!?」
『いや、俺も驚いたんだがよ…。
今、若い女で新人なのに現場やってる、やたら力が強い子が居てさ。
ちょい前に会社ぐるみで飲み会に行った時、同じくガブガブ飲んでたその子が
『あんたの飲みっぷりに惚れた』とか言ってきてくれてよォ!
もーそっからすっかり意気投合しちまって!』
「おいおい、本当かよ…。
でもよ、やっぱ若くして現場で怪力で酒飲みって、それなりの顔なんじゃねえのか?」
『…それなりってどんなんだよ。ひでぇ奴だな。
驚くなかれ、とんでもねぇ美人さんでよ!顔立ちはあの女優のNに似てんだが、
それよりも十倍も百倍も綺麗なんだよな。今度見に来いよ!』
「…それが本当なら、お前騙されてんじゃないのか?」
『さっきから、相変わらずズケズケ言うな…。騙されてるってのは無いだろ。
こんな下請け大工やってる四十終盤のオッサンなんて、騙しても実入りがねぇよ。』
「…確かにそうだわな。まあ、それなら大丈夫か。」
『…で、お前はどうなんだ?最近。』
「いつもと同じだよ。ただちょいとスランプな事と、掃除がきつくなって来た事以外は。」
『ふ〜ん…。お前も嫁でも貰ったらどうだ?』
「嫌だよ。最近の若い女の子は色々ワケ分からんし、
同年代のオバハン共は、ちょっとした事ですぐドラマみてえにガミガミ言いやがるし、
その中間で独身の奴らは、そこそこの男探しで血眼だ。見ちゃいられねえ。
俺の好みかつ、日本男児の憧れである『貞淑な大和撫子』は、もう絶滅したんだよ。」
『まぁそう言うなよ。よけりゃあ、何人か見繕ってきてやるぜ?』
「結構だ。
…まあ、大丈夫そうでよかったよ。結婚、おめでとさん。」
『おう、ありがとさん。』
「それじゃ、そろそろ切るぞ。」
『そうか、じゃあまたな。来いよ!結婚式。』
「はいはい…じゃあな。」
電話を切り、改めて居間のソファーに寝転がる。
「アイツが結婚とはな…
世の中、何が起こるか分かったモンじゃねえ、ってか。」
大きなあくびを一つ。
「ま、俺みてえな安定しないゲージュツ家には、独り身の方が気楽さ。
げに素晴らしきは独身貴族…ってな。」
自嘲か、それともやせ我慢か、薄ら笑いを浮かべながらそう呟いた。
「あーあ、かったりぃ…。
…あ。そういや今日『血ぬられ刑事』の再放送だったな。久々に見てみるか。」
ローテーブルに置かれたリモコンを構え、電源を入れ、チャンネルを合わせる。
…しかし彼の予想に反し、テレビに映った物は、刑事ドラマとは全く違う番組だった。
『モンスターズ・ミラクル・マーケット!!』
「あれ?何だこりゃ?チャンネルは…合ってるよな?」
困惑する琵居蔵だが、番組はそんな事はお構いなしに進行を始めた。
『どうも皆さん、貴方のお悩みを激しく、かつ、いやらしく解決する商品を提供する、
モンスターズ・ミラクル・マーケット。略してMMMのお時間です♪』
「うおっ、とんでもねぇ別嬪さんだな!この二人。
こんな聞いた事もないような番組なんかに収まってていいのかよ?」
先程はああ言ったものの、琵居蔵は別に女に興味がないわけではない。
美人を見
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