どうして、こんな事になってしまったんだろう…
私達は深いショックと悲しみの中で、ただその事を考えていました。
私とエイムさんが、力を合わせて防いでいたはずなのに…
何よりも恐れていた事態、何よりも避けたかった結末が、現実に起こってしまいました。
…いずれ彼は全てを知り、そして騙されたのだと思い、傷ついてしまうでしょう。
彼は何も悪くないのに、ワタシのせいで…。
「…変えられなかった…のかな…?」
…せめて、何か一言でも言えれば。
本当に愛していたとか、貴方を傷つけるつもりじゃなかったなどと言えれば、
少しは違ったかもしれません。
でも…結局、ワタシ達は、自分の臆病さに負けてしまいました。
…いえ、そうでなくても、彼を騙していた張本人であるワタシに、
何を言う権利があるのでしょうか。
考えれば考えるほど、『ああなるのは仕方ない事だった』という思いと、
『言い訳だ。何も出来なかったんじゃなく、しようとしなかっただけだ』という思いが、
激しくぶつかり合って、ワタシを更に攻め立てました。
でも、悩んだところで、やってしまった事が変わるわけではありません。
今できる事…今、やるべき…事は………
「……わからない…。ワタシは…どうすれば、いいの…?」
とうとう堪え切れなくなり、ワタシの目からは、涙がこぼれ出しました。
正体がばれないように力を尽くしていたとはいえ、ばれた時の覚悟もしていたはずなのに、
いざ、ラエールさんと別れなくてはならないこの状況に置かれてしまうと、
ワタシの中から、大きな大きなものが抜け落ちてしまったように、
何も分からなくなってしまいました。
これから先、ワタシができる事は何か、何もわからない。したい事が何もわからない。
同時に、何も力が湧かなくなりました。
彼の事を忘れ、新しい人生を始めるなんて事、考えられるわけもないし、
だからといって、この世から消えてしまう勇気すら、ワタシには無い。
唯一、ワタシに残されている存在と言えば…
「エイムさん…」
ワタシの友達になってくれた、彼と同じくらい大切な女性。
でも、恥ずかしい事に、彼女と出会った当初のワタシは、
いきなり現れてどういうつもりだろうと警戒していました。
でも、ワタシの正体を見られて、彼の家でお互いの事を話している内に…
同じ悩みを持ち、同じ男性を心から愛している彼女に、次第に親近感を覚え、
『彼女となら、うまく行きそう…』という思いが生まれました。
それに何より、正体を偽らずに会話するのが、こんなに嬉しいとは知らなくて…
ワタシは、彼女の仲間になるという誘いに乗ってみる事にしました。
その思いは正しかったようで、ラエールさんが仕事でいない時に、
ラエールさんの意外な弱点や性癖、彼の家で読んだ本などについて会話したり、
たまにトランプやチェスで遊んだりしている内に、いつしかワタシ達は
親友と言ってもいい位の間柄になる事ができました。
彼女といた時間は、本物のワタシとして過ごせる唯一の時間でした。
その時間は、愛するラエールさんとの時間とは、また違った幸せを与えてくれました。
二人で力を合わせ、彼の疑念を完全に払えたことを喜び合った事も…
ラエールさんと離れて、ちょっと遠くの町に、二人で買い物に行った事も…
先日、同棲一周年を一足早く、ワタシ達だけでこっそり祝い、乾杯した事も…
…みんな、ワタシの一部。忘れる事のできない、大切な思い出でした。
願わくば、こんな3人の日常が、ずっと続けばいいな…そう、思っていました。
…
…なのに今、彼女は、ワタシと一緒に当ても無く逃げ続けています。
こんなワタシの事を受け入れてくれた優しい彼女が、どうしてこんな事に…?
彼女の背中には、悲しみがありありと映っているようで、余計に気持ちが沈みます…。
「…何?」
「…あの、もう少し…くっついても、いいですか?」
「…ええ。」
エイムさんの人の部分の背中に近付き、後ろから手を回します。
彼女の温もりと心臓の音に、わずかながら、安堵を覚えました。
「ノイア、ちゃん…」
「ワタシ達…これから、どうしましょう……
一体、どう、すればいいんでしょうか…」
「…わからない…
…わかんないよ、そんな事!私に頼らないでッ!!」
初めて、彼女に怒られました。
振り返った彼女の目には、ワタシと同じく、大粒の涙が溜まっていました。
…そうですよね。
彼女だって、悲しくて、不安で、どうしようも無かったはずなのに。
これからどうするか、どうなるのかなんて、彼女だって分からないはずなのに。
…きっと、何かにすがりたくて、思わずそんな事を言ってしまったんだと思います。
彼女の気持ちも考えずに。ワタシって、本当に身勝手ですよね…。
「ご…ごめん
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録