中編:月の無い夜の追跡劇

 俺が謎の美女、ノイア=ファントムと同棲し始めて、もうすぐ一年になる。
結婚はまだだけど、今はとても幸せだ。
しかし…同棲を始めた頃は、色々と疑問や違和感があった。
まず、曇りの日や、新月の日などの月の見えない日には、なぜかどこかへ行ってしまう。
それに、なぜか自分の詳しい過去を話したがらない。家族の名前や、知り合いの話とか。
自分の事を好いてくれる人を疑うのは気が引けるが…少し怪しみ始めていた。

 しかし、ある日を境に、その怪しい所が綺麗に無くなった。
月の見えない日でも、帰宅すると普通に彼女が家にいたし、
俺が彼女について質問しても、はぐらかさずにしっかりと筋の通った答えを貰えた。
何だか、急に謎がなくなったのもそれはそれで怪しいと思ったが、
怪しんでてもキリが無いし、何より、変に疑って今の生活を壊したくない。
…そういえば、彼女の怪しい点が消え去ったあの日、いつものように仕事をしていたら、
何やらものすごい悲鳴が聞こえたような気がしたが…アレは何だったんだろう?

「ラエちゃん、もうすぐノイアちゃんと同棲一周年やな。」
「そうですね。何かパーティーとか、プレゼントでも贈ろうかな…。」
「そして、アタシの酒場で働くようになって、五周年目でもあるな。」
「そういえばそうだった!いつもご苦労様です、マスター。
 それも併せて、なにかお祝いしないと…」
「…なあ、ラエちゃん。」
「何ですか?」
「アタシ、まだラエちゃんに言うてへん事があるんや。
 ずっと隠しとったけど、五年もたったし、もうそろそろ話とかなって思ってな。
 ちょうど誰もお客さん居てへんし、ちょっと話してええ?」
「いいですけど…どうしたんですか?改まって。」
「ラエちゃん、今まで、ずっと隠してきとったけど…」

 そう言うと、マスターの黒髪が、狐の毛並みのような色に変わり、
頭からは髪と同じ色の、二つの尖った狐耳が飛び出し、さらに彼女の背後からは、
一、二……七本もの狐の尻尾がふさっと生えてきた。

「実はアタシ、『稲荷』ゆう、狐の魔物やねん。」
「えええッ!?」

 マスターは魔物だったのか…。道理で、ずっと若々しい姿のままだったり、
男を誘うような言葉遣いをしたりしていたのか。

「あ、勿論本気やないで?癖や、癖。アタシには旦那も居るし。」

 その上、心も読めるのか!?

「いや、ラエちゃん今口動いてたさかい…」
「あ、そうだったんですか。…あんまり驚いたからかな?」
「んで、今見たとおり、アタシは魔物や。今までずっと人に化けとったけどな。
 …実はアタシ、もともとこの町を親魔物の体制に変える手引きの為に、ここに来てん。
 まあ、『すぱい』?みたいなモンやな。
 体制が変わった去年までずうっと機会を伺っとったんやけど、あのお堅い前町長、
 全然隙が見えへんし、ホンマ難儀やったわ…。」
「へぇ…。でも、なんで俺にそれを話したんです?」
「体制も変わったし、ホンマは前々からみんなにばらしたかったんやけどな。
 昔いっぺんだけ、教団の人にアタシが魔物やないかって疑われた事があったんやけど、
 みんな、アタシの事をずっと人間やって信じて、かばってくれてたもんやから、
 それを裏切ってまうような気がしてな。
 アタシの旦那には、もちろんもう話したけど…
 町の皆には、もうちょっと秘密にしときたいねん。
 でもラエちゃんなら、口も堅いし、優しいし、偏見もないし、魔物と暮らしとるし、
 付き合いも長いし、ラエちゃんにだけならもう話してもええんやないかなーと思って。
 でも、それだけが理由とちゃうで。
 この後の話を滑らかにする為にも、正体を明かす必要があるんや。」
「…ちょっと待って。魔物と暮らしてる?俺が?」
「せや。」
「家にはノイア以外居ませんけど?」
「せやから、そのノイアちゃんが魔物なんや。」
「そうだったのか…。確かに、魔物かもしれないと思う位美人だったけど、やっぱり…」
「嫌いになった?」
「そんな事ないですよ!それぐらいで嫌ったりしません!」
「そか。良かったわ。それじゃあ、ここからが本題や。
 …ラエちゃん。ノイアちゃんの事、ホンマのホンマに愛しとる?」
「勿論ですよ!」
「ノイアちゃんがどうなっても、何が起こっても、愛する自信はある?」
「はい。きっと、愛し続けます。」
「…うん、嘘はついてへんみたいやな。それじゃ、話すで。
 ノイアちゃんは、魔物や言う他にも、ラエちゃんには言えへん秘密を抱えとる。
 でもそれは、ラエちゃんがこれからもノイアちゃんと暮らしていく上では無い方がええ、
 とっても重大な隠し事なんや。」
「どうして、それをマスターが知ってるんですか?」
「偶然見えてもうたからな。せやから、お節介心が働いた言うか…」
「…どんな秘密なんです
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