前編:夜に生まれた、奇妙な友情

 疲れているのか、ここ最近、似たような夢ばかり見る。

「アハッ…いいわ、貴方…♪
 大きくて、熱くて、激しくて、何よりその可愛い声。とっても素敵よ…」

 俺の上で、俗に言う『騎乗位』の体勢で腰を動かしまくるこの女性。
その容姿を一言で表すならば、まさしく『絶世の美女』という言葉が相応しい。
あらゆる人が足を止め、見惚れそうな端正な顔立ち。
切れ長の美しい目。紫色の艶やかな髪。ずっと聞いていたくなる声。
下に目をやると、ピンと立ち上がった綺麗な桃色の乳首を備えた
高級なメロンのように大きな胸が二つ、腰の動きと共に跳ね回っている。
多くの男性を興奮させ、女性は嫉妬、あるいは羨望の眼差しで見つめるであろうそれが、
キュッとくびれた腰と、形のいい柔らかそうなお尻と見事に調和して、
全くもって完璧なボディラインを描いていた。
老若男女、あらゆる存在の憧れであろう『女性の理想形』…
……ダメだ。俺のボキャブラリーじゃ、ありふれた形容詞しか出てこない。
とにかく、そんな超絶ド美人が、ベッドの上で妖艶な表情を浮かべ、
気持ちよさそうに俺に抱かれて…いや、気持ちよがる俺を一方的に犯している。
ここ数日間、どういうわけか毎晩そんな夢を見ているのだ。

「俺も、ハッ、やき、が、回った、かな…ッ。」
「あら、何が?」
「知り合いが、どんど…ん、クッ…彼女作っ、たり、結婚してく…からって、
 あんたみたいな、ぁ…すげー、いい女に、犯される…夢、毎晩、見る、なんてな…」
「いいじゃない。ここは夢なんだから、思いっきり楽しまなきゃ♪」
「それも…そうだな。………うっ、く!もう、出る…ッ!!」

 ビクッ!!ドクッ、ドプドプッ…!

「ふふっ…私の中で、どんどん出てる…♪
 もう何度も出してるのに、まだまだとっても濃くて…あぁ、癖になっちゃいそう…
 ……さ、まだまだ夜は長いわ。このままもう一回、やっちゃいましょうか♪」
「ああ。」
「素直でよろしい。ごほうびに、今夜は最高に気持ちよくしてあげるわね♪」
「ハハッ、楽しみだな。…あのさ。」
「何かしら?」
「…ありがとうな。こんないい夢見させてくれて。」
「どういたしまして。…でも、これはただの夢。ちゃんと現実で恋人を作らなきゃ。
 私は、もう…」
「…どうしたんだ?」
「あ、いえ、何でもないわ。それじゃ、続きしましょうか♪」










 …いつものように夢の中で精の摂取を済ませると、私はそのまま、そっと立ち去った。
彼はなんにも知らないまま、ベッドの上で寝息を立てていた。
決して顔も性格も悪くないはずなのに、女性運が無いのか、はたまた興味が無かったのか、
彼には長い間、恋愛や結婚という機会が訪れなかったらしい。
数ヶ月前に、彼の住む町が反魔物から親魔物派に移行しても、それは同じだった。
優しくて頼りになる素敵な男性なのに、恋愛ではいつも貧乏くじを引く…
そんな彼を、幸せにしてあげたいと思ったのかもしれない。
…でも私は、地味で、臆病で、暗くて、おまけに下半身が馬。
唯一自慢できるポイントといえば、この大きな胸くらいしかない。
そんなのが近付いても、迷惑なだけだろう。

 だからせめて、彼に幸せな夢を見せてあげようとした。
私の分身であり、私の理想の姿でもある、あの美しくも大胆な絶世の美女の姿で。
でも、夢の中で交わる内に彼に惹かれ、彼の事を好きになっていく程、怖くなってきた。
何かの間違いで彼にこの姿を見られ、この関係が終わってしまうのが…

 だから…私は決めた。今夜で、彼とは終わりにすると。

「ごめんなさい。さよなら…ラエールさん。」

 彼に、嫌われたくなかったから。
彼のことを好きになればなるほど、彼から離れづらくなる。
そして、彼の傍に居られなくなった時のショックも大きくなる。
私のやっている事は、彼の弱みに付け込んで、騙し続けている事に他ならない。
万が一、この姿を、私のやってきた事を彼に見られてしまったら…きっと幻滅される。
それで私が傷つくだけならいい。私は、それだけの事をしたのだから。
…でも、私の蒔いた種とはいえ、そんな事態になったら、彼も傷つけてしまう事になる。
自分はあの女に騙され続けていたのだと。やはり自分は、女性に愛されないのだと。
彼は何も悪くない。だから、絶対に傷つけたくない。傷つけちゃいけない。
そうやって嫌われるくらいなら、傷つけ合ってしまうくらいなら、
離れられるうちに離れて、そして二度と会わない。その方がずっと楽なはず。
勝手に夢を見せて、自分のワガママで離れて…私は、本当にひどい女だな。
でも…私はやってしまった。だから、もうこの手しかない。

「これでいいんだ。これがお互いのためなんだ…」

 自分にそう言い聞かせ、私は町の出入り口を抜けた。
しば
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