街道近くの崖の洞穴。
そこが、攻めるべき目標だった。
「あれがドラゴンの巣穴か」
最近現れたそれに街道を通る人々からの被害報告が後を断たず、国が討伐に乗り出したのだ。
派遣されてきたのは、王の側近の騎士団。
その実力は近隣諸国にも響き渡り、団長であるグライフは大陸一の腕前だとさえ言われている。
「よもや、本当にドラゴンの鱗を裂く機会が来ようとはな」
鱗裂きのグライフ。
それが異名だった。
鋼のようなドラゴンの鱗すら易々と切り裂く。
・・・という触れ込みだったが、あくまで比喩の話。本当にドラゴンを相手取ったことはなく、むしろ見るのも初めてだった。
「団長、巣穴への道を見つけました」
「よし、今行く」
巣穴の前の小さな足場を慎重に進み、入り口に立つ。
部下達は最悪の事態を想定し、待機させた。
足場が悪くあまり人数が入れないのもあるが。
ぐぉぉぉぉぉ・・・・
吐息、なのか?
未知の音に身構える。
手が震えるのが判る。
深呼吸。
戦士に必要なのは、いざというときに、必要以上に緊張しないことだ。
師匠からの教えであり、部下への教訓にもしている言葉を、改めて自分に飲ませる。
ぐぉぉ。
はたと、その音が止まる。
「今すぐに立ち去れ、人間。ここは我が城。ドラゴンの巣穴だ」
剣の柄に、手をかける。
洞穴の奥、入り口からの光が届かない闇から、ゆっくりとそれが現れる。
「お、女・・・?」
「ん?なんだ、我が姿を見るのは初めてか」
ドラゴンが自身の手を、身体を、ちらりと見て言った。
翼に尻尾、半身を鱗で覆われているのは確かにドラゴンと言えばドラゴンだったが。
どちらかといえば、女がそれらを身に纏っている印象の方が強い。
「魔王が代わり、魔力の性質が変わってしまったようでな。
おおかた、翼のある巨大なトカゲを想像していたのだろうが」
「姿はどうでもいい。人を襲うのをやめろ」
「人間風情が命令とはな。やはりこの姿は嘗められやすくて敵わん」
こちらの言うことを意にも介さない様子だ。
「もう一度言う。人を襲うのをやめろ。さもなければ、ここで斬って捨てる」
「ほざけ!」
咆哮。そして、口から漏れ出す炎。
それは大きくはなかったが、例え姿が変わっても、以前と同様、作り話から飛び出したかのような、強大な力があることを誇示していた。
「今ならまだ許してやろう。我が巣穴から出て行け」
「断る。私はこの国の平和を背負う者だ。その背を向けるわけにはいかん」
「ならば、その誇るべき背中以外を八つ裂きにしてくれよう!
果敢にも龍に挑んだ栄誉をくれてやる、死に絶えよ!」
「はぁぁぁぁあ!!」
がぁぁぁぁああ!!
二つの咆哮が、衝突した。
「表を上げよ」
城の玉座の間。
王と、その近衛兵が並ぶ広間。
その玉座の正面で跪き、顔を上げるグライフ。
「こたびの働き、大義であった」
「ありがたき幸せ」
「・・・のだが、なに、それ?」
急に崩れた緊張感と共に、王が指差す先。
「んダァァァリィィィン!!ね、新しい愛の巣はどこにするの?ここ?
あの邪魔なのブッ飛ばしてこのお城を巣にしちゃうの?」
グライフにすり寄るドラゴンだった。
王も、グライフも、近衛兵たちも、その場の全員が、妙な汗をかくのを感じた。
あの後、かろうじて勝ちはしたものの、その瞬間からこの様子だ。
「えぇと・・・一応、ドラゴンです」
「うん、報告と同じ、鱗を纏った女なのはわかるんだけど、その、威厳とか・・・
伝説の怪物らしさ、どこいっちゃったの?」
「どうやら、負けを認めた相手に懐く性質があるようで・・・」
「もうっ、ダーリン私の話を聞いてよ!・・・あ、ほっぺたに傷が。私の爪痕ね。
あのときはごめんね。今舐めてあげるから」
「いや、大丈夫、大丈夫だから・・・」
「と、とりあえず、これで街道の平和は守られたが・・・」
「申し訳ありません、流石に無抵抗の相手にトドメを刺すのは気が引けて・・・」
「ダーリンのためなら私なんでもするけど、死ぬのだけはご免よ!これから始まる二人のハッピーライフのために!」
「あ、うん・・・その・・・グライフ卿、長期休暇あげるから、それの処理、よろしく」
「え、あ、王様!王様!待ってください!王様!」
逃げるように玉座を後にする王。
「やったねダーリンお休みだって!さぁ二人で愛を語らいましょう!」
「誰か・・・助けて」
玉座の間にいた近衛兵全員が、グライフに同情した。
が、曲がりなりにも彼に侍るのはドラゴン。誰一人、手出しはできなかった。
城の一角、グライフに充てがわれた部屋。
そこにグライフとドラゴンはいた。
「ここが愛の巣ね!あぁ、ダーリンが暮らしてきた匂いがいっぱい!」
プレートメイルを脱ぐと、どっと疲れが押し寄せた。
正直、「これ」になるくらいなら、ドラゴンを3体同時に倒す方がまだ
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