第二章

遺跡の構造確認ということで、二人で暗い廊下を進む。
イヴ曰く、廊下の石レンガに見えるものの中にいくつか、導力を通すと薄く光るものがあるらしいのだが、導力回路が劣化によって故障しているそうで、その光景を拝むことはできなかった。
「そういえば、僕、ここ入って既に2日経ってて・・・」
「そうでしたか・・・お辛いところにお手を煩わせてしまったようですね。
 大変申し訳ありませんでした」
そうそう、食料が尽きて、お腹が減ってるんだよね。
と言おうとしたが。
「どうぞ、もう誰も使っていないので、お好きな部屋で用を足してください」
「そっち!?」
「拭くものがご入用でしたら、近くの書類を、揉んで柔らかくしてお渡しします」
「うん、もうちょっと気を使うべき部分があると思うんだ!」
「排泄は体内の毒素を排出する機能もあると聞きます。ならば、
 他より優先して心配すべきかと思いまして」
「うん、大事だけどさ!大事だけどさ!もっとあるよね!?」
「えっ・・・まさか、2日間も我慢を!?それはお身体に障ります!
 排泄介助モードを起動させますので、早く・・・」
「そっちから離れよう!?」
実は既に何度かしたとは、口が裂けても言えなかった。
「ほら、エネルギー補給とかもっと大切なものあるよね!?」
「あぁ、申し訳ありません。私自身、スリープ状態であれば、周囲に薄く漂う
 魔力を吸収しているだけで足りてしまうので、すっかり失念していました」
「地味に便利だねその機能・・・」
「わかりました。そういうことであれば、詳細な探索は諦め、
 手早く出口を探すことにしましょう」
歩む脚を止め、ふいに歌うような仕草をするイヴ。
しかし、仕草だけで、音は聞こえない。
「・・・なにやってるの?」
「申し訳ありませんが、少しお静かにお願いします」
「あ、はい」
それが1、2分続いただろうか。
「・・・ご清聴ありがとうございました」
思わず拍手をするも、結局何も聞こえなかった。
「で、今のは・・・?」
「簡単ですが、超音波探査です。人間の可聴域を超えた音を出し、反響で
 周囲の様子を探るという・・・」
ラウルの頭にはてなマークが浮かんでそうなことを確認したイヴ。
足元の小石を通路の奥へと投げる。
石は闇に飲まれ、遠くでかつん、と音を立てた。
「要は、この音の跳ね返りを聞いて、周りの地形を知るものです。
 ただ、人間には聞こえない音でそれを行っていた、というだけで」
「あぁ、だからか」
イヴが不思議そうな顔で、ラウルを見る。
「こうして話していると、マスターは聡明な方だということは理解できます」
「え?うーん、僕としては、
 どちらかというとイヴの説明が上手なだけという気がするけど」
「しかし、私に使われている基礎的な機能をまるで知らない様子なのを見ると・・・
 いえ、何でもありません。先を急ぎましょう」
かなり歯切れの悪い答えをされた。
「今の調査で、出口はすぐ傍だと判りました。もう10分も歩けば出られるはずです」
また歩き出したところで、ちょっとした疑問を訊いた。
「そういえば、遺跡の変化がどう、って言ってたけど、
 イヴはここのこと知ってるの?」
「正直なところ、そこまで詳しくは知りません。
 せいぜい・・・入口から、あの廃棄場まで、です」
「あ、ごめ・・・」
「いえ、構いません。もう、過ぎた話ですし、それに・・・
 ここに居たおかげで、とても幸せな出会いができましたから」
気恥ずかしくなる台詞をさらりと言われた。
「へ、あ、じゃぁ、大きな時計のことも知らないよね!は、ははは」
ダメ元、というよりは、照れ隠しで訊いてみた。
「大きな時計・・・あぁ、きっとエントランスにある、あれのことでしょうか」
「知ってたの!?」
意外なところに答えがあった。
「えぇ、ここは元々、私たちオートマトンの製造工場で、地上に工場、
 ここ、地下には研究施設がありました」
「へぇ」
「ですので、会社概要として、ここの大まかな施設案内のようなものは知っています。
 しかし、詳細な地図は社外秘でしたので、少し調査をしたい、と思いまして。
 あと・・・できることなら、他に取り残された仲間がいないか、と、
 少しだけ期待したのですが」
「あ・・・」
「いえ、お気になさらず。何分300年も前のことですから。
 きっと、もう誰一人残っていませんよ。
 えっと、それで、時計の話でしたよね」
「あ、うん」
「それは、この研究所の入口、地表からほど近い場所にあるのですが」
「もしかして僕、すっごいとんでもない方向音痴なことしてた・・・?」
「いえ、セキュリティを切らないと幻影魔法で惑わされる仕組みがあるんです。
 意味のない道を延々歩かされ、帰ろうとしたときだけ、
 帰り道が正しく出てくるような。きっとそれに引っ
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