こつ、こつ。
薄暗い石造りの通路を、か弱いランプの明かりが照らす。
来た道は既に闇に飲まれ、先の道も数歩先は黒で塗りつぶされている。
こつ、こつ。
懐中時計を取り出す。
2時間ほど歩いただろうか。
もっとも、この遺跡に入ってから既に2日経っているのだが。
こつ、こつ。
マッピングはしているはずなのに、どうも同じ場所を行き来している感覚が拭えない。
こつ、こつ。
食料も尽きた。目的は果たせていないが、せめてここから出るだけでも──
こつ、かっ。
考え事をしていたため、足音の変化に対応が遅れた。
足元の石レンガが、見た目と違う柔らかいような感触を見せる。
ぐらり。
体勢が崩れる。
がらがらがらがら。
「ぬぅおわぁぁぁぁぁ!!」
どことなく間の抜けた悲鳴は、通路の闇と、崩れた穴に吸い込まれていった。
「・・・・・ぃってぇぇぇぇぇ!!!」
瓦礫の山が叫び声と共に崩れ、青年が這い出す。
どこか強く打ち付けたらしい。
見ると、右腕前腕の真ん中辺りがぱっくりと割れ、血が滴っていた。
あちゃぁ、とでも言わんばかりの表情をする青年。
主人を尻目に無傷の生還を遂げたランプに感謝と若干の恨みを込めて取り上げ、とりあえず止血だけでも、と思い、背負っていたはずのバッグを探す。
が、それは途中で止まることになる。
その部屋の異様な光景に。
見たことのない部品の山。
歯車(流石にこれは知っているが)、丸く平たいもの、青い円柱状のもの、黒い板から金属の脚がムカデのように生えているもの。
そして、それら小さなものがびっしりとくっついた緑の板。
その部品が何のもののためなのか、まるで想像もつかない。
壊れた白い箱からそれらがはみ出ていたので、かろうじて何かの部品だと類推できた程度だ。
部品・・・というよりは、たぶん、廃材の山。
そして、何よりも異彩を放っていたもの。
少女。
いや。
片腕が取れて、歯車が露出している。
少女の──人形、だろう。
確かに、腕の歯車や、関節から覗く金属部品は、間違いなく人間ではないことを物語っている。
しかし。
腹から顔にかけての肌はきめ細やかで、塗料や、まして金属のようには見えない。
しいて挙げれば、生きているにしてはやや青白すぎる、といったところだが。
ぷっくりと膨れた唇。
柔らかそうな頬。
綺麗に並んだまつ毛。
思わず顔を寄せて魅入ってしまう。
鼻の頭に積もった埃だけが、少女が身じろぎ一つせず、その場に居続けたことを語っていた。
おとぎ話の眠り姫は、こんな感じだったのだろうか。
ここまで観察しても、まだ夢でも見ているような気分になる。
何故って、瞼なんかは今にも開きそう──
開いた。
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:!!?!?」
突然のことに、声にならない声が上がる。
慌てて逃げようと振り返ろうとしたが、謎の衝撃に阻まれる。
いつの間にか腕を掴まれていたらしい。
「う、うわぁぁぁああぁあぁ!!」
振りほどき走ろうとするが、掴まれた腕が重い。
まるで、金属の塊をぶら下げているかのように。
「ひっ、わっ、ひえっ!」
それでも無理やり振り解こうとする。
ふと。
軽くなったかと思ったら。
がしゃん。
少女が前倒しになったらしい。
振り返ると、引きずられる格好で、虚ろな瞳でこちらを見ている。
「や、やめっ、ひっ」
力任せになんとかしようとするが、体勢を崩して倒れる青年。
じり、じり。
迫る少女。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
襲われる。
そう思った次の瞬間。
ぬめり。
腕に伝う感触。
「ぼ、僕なんか食べても美味しくないってばぁぁぁ!」
ぬめり。
ぬめり。
全力で身構えるも。
ぬめり。
ぬめり。
一向に齧られるような感触はない。
恐る恐る見ると。
少女が、傷口を舐めていた。
こちらが見ていることに気づいた少女。
口を開き。
がっ、ざざざざ、ぴー。
「ひっ!?」
聞いたことのない雑音を発する。
完全に腰を抜かし、次は何をされるのかと見ていると。
少女は壊れた肩に手を伸ばし、そこから何かを取り出し、こちらに差し出した。
包帯だった。
「・・・へ?」
あっけにとられる青年に、なおも包帯を突き出す少女。
「使え、ってこと?」
ががざ、ざっざざ。
雑音で返された。
恐々と受け取る。
少女は動き出すでもなく、ずっとこちらを見つめている。
「あ、あり、が、とう・・・」
とりあえず受け取ったものだからと、包帯を巻こうとする。
すると、少女がこちらに手を伸ばす。
「巻いて、くれるのか?」
こくり、と頷く。
「あ、そ、それじゃ、お願いしよう、かな・・・?」
再度頷き、少女が立ち上が・・・ろうとした。
しかし、がしゃんと音を立てて転がる結果となった。
立とうとして、転び。
立とうとして、転び。
最初は片腕しかないせいだと思ったが、よく見ると片足が曲がったま
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