前編:押し付けられて一日目

がらりとした広い部屋の中、高級ながら豪奢な嫌みのない家具と絨毯に囲まれて俺は独り言つ。


「はぁ…まったくどうしてこうなった。」


事の始まりは、そう、俺がこの街に来たところからだろうか




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ここは「風と鉱石の街」グランツクライノート。
大陸西部、大陸を断絶する底も見えぬほど深い大断層を超えた先の、太陽が照りつけ風の吹きすさぶ荒野にある巨大な台地(テーブルマウンテン)。その切り立った岩壁で挟まれた峡谷にある都市で、街が台地の頂から崖を伝い、地下へ広がって行くという構造になっていて、さながら街自体が巨大なダンジョンのようになっている。
また、台地の頂に大きな湖があり、年に一度くる雨季にその湖に雨水がたまり、地下水や街の中央を流れる河として流れ土地を潤す。
一番の特徴は、鉱石資源が豊富であり街中に様々な鉱石の結晶が露出していることだ。


「ん〜〜っ…やぁっと着いた。」


俺…ユマニテ=ヴァーリッジは慣れない馬車に長時間乗って強張った体を解き解すように伸びをする。特に張っている首回りや尻は念入りにだ。
最近になって開発されたという汽車に乗ればもっと早く快適に来れただろうが、流石にそんな金はない。


「しっかしまあ…ホント見事に荒野だなぁ…暑ぃ」


乗ってきた馬車を振り返ってみればその背景にはカンカンに照る太陽と吹きすさぶ風、そして地平まで続く赤茶けた大地にまばらな緑だった。
俺の故郷は大陸北東部、氷北の大国から南に下った海に浮かぶ島であり、この地とは真逆の環境だ。仕事とはいえ、わざわざ大陸を真横に突っ切った先からわざわざ呼ばれるなんて、これは自信を持っていいことなのだろう。

口笛の音色がよく似合いそうなこの荒野だが、俺は仕事で来たのだ。暢気に口笛を吹いて観光するのは後回しだ。


「さってと、ボヤボヤしてないで行くかぁ」


街のほうへ向きなおる。目の前にあるのは断崖絶壁と呼んでいいほどの台地とそれを縦に割く割れ目。
俺はその割れ目の一つ、街の入り口に歩を進めていく。まずは俺に仕事を依頼するここら一帯を治める領主に会いに屋敷に向かう。


「絶壁に割れ目…ね」


…いやらしいことを考えた輩は後で名乗り出なさい。お兄さんとの約束だ。




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「おお、よう来てくれたな。お主がユマニテ=ヴァーリッジじゃな?待っておったよ。」


「はい、お初にお目にかかります、フロティア公爵。」


「そう畏まられるとわしが構えてしまうのう、もうちっと気楽にしてくれた方がわしも楽じゃわい」


「は、はぁ…ではそうさせてもらいます。」


台地の頂にある湖の湖畔に建てられた屋敷の一室、目の前にいるのはこの荒野一帯を統治する"開拓公"ヴァーレイ=フロティア公爵。そしてその横に寄り添うように立っているのは…


「ハァイ♪初めまして!」


「…一領主の妻がリリムってどういう事っすか…」


下腹部から突き上がり、脳髄を揺さぶられるように感じるほどの激しい欲情を堪えながらもツッコむ。魅了(チャーム)の魔力は抑えてあるだろうが、それでもその生まれ持った美貌、女性としての魅力をこれでもかと言わんばかりに詰め込んだ豊満な肢体だけで世の男性をことごとく虜にしてしまいそうなこの女性がフロティア公の妻にして魔王の…何番目かはわからないが…娘、リリムであるミニエーラ公爵夫人だ。と言うかよくこの土地魔界化しなかったな…ちなみに彼女もなかなかの変わり者である。


「あら、領主と結婚してる姉妹は結構多いのよ?」


「それに惚れちゃったものは仕方ないじゃろう、のう♪」


「ねー♪」


「惚気はいいのでさっさと仕事の話に移ってくれませんか?」


俺は建築家であり、主に建物の設計を仕事としている。今回この街に呼ばれたのもその依頼だ。依頼主の希望と土地の特徴をしっかりと考えた上で設計しなければならない。


「ううむ、確かに楽にするように言ったがちと言葉に棘が多すぎやしないかの…まあよい早速仕事を頼みたいのじゃが…」


「はい…」




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この街に来てから早数ヶ月が経った。俺は仕事として冒険者ギルドと酒場の建て直し、この街の新たな住人のための新居の設計をしたのだが、流石は魔物娘と言うべきか、当初俺が予想していた工期よりもはるかに早く建ってしまった。あまりにも早いので、途中で心配になり何度も自ら点検をしたのだが手抜かりは一切なかった。ジャイアントアントすげえ。


「ということで、満足いただけましたか?」


「見事なもんじゃな!お主の事気に入ったわい!」


時刻は昼を過ぎたころ、俺は再びフロティア公の屋敷に来ていた。どうやら気に入られたようで、これだと今後贔屓にしてもらえるかもしれ
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