第肆話-初戦前夜-

油断した……

首筋に鋭い無機質の物体が当てられる感触がする。声からして若い女性のようだ。
僕は素直に従った方が良いと判断し、背後の女性のうごきを待った。

「この森に何の用だ?」
「話をしたい人がいるんだ」
「こんな森の奥にか?」
「まぁね」
「……よし、ゆっくりとこちらを向け」

言われた通り振り返ると、そこには今回の目的であったワーウルフが立っていた。


武器を持っていなかったので、幸い敵ではないと証明するのは楽だった。
彼女はワーウルフのルノア。陶器のような白い肌、セリーヌも大きい方だが、
さらに豊満な胸は薄布では隠しきれず、深い谷間を作り上げている。
銀色の全身の体毛は光を浴び、淡く輝いていて、腰まである銀髪が高貴なイメージを与える。
少しつり上がった漆黒の眼は黒曜石のようだ。見た目は大体十代後半くらいだろうか。
まあ何年生きているかは分からないが……

「……おい、今失礼なことを考えなかったか?」
「っっ!!い、いえそんな事は、すごく綺麗な髪だな〜と……」
「そ、そうか。この髪は私の自慢なんだ」

髪を褒められたのが嬉しかったのか頬が少しだけ朱に染まり、
フサフサの尻尾が左右に揺れる。
そんなやりとりをセリーヌが恨めしそうな目で見てきた。

「ふ〜ん、だーりんはこーゆー子がタイプなんだぁ」
「ぶっ!!!な、な、何言い出すんだ急に」
「べつに〜、ただ本当のこと言っただけだよぉ?」
「そういう意味で言ったんじゃないよっ」
「ははは……」

そんな二人のやりとりにルノアは苦笑していた。



その後、討伐隊が編成されていること、二日後に進攻してくることを告げると

「ふむ、長に報告してからだな。お前達はどうする?付いてくるか?」
「いや、今日はもう帰るよ。また明日ここで会えるかな?」
「そうか、分かった。では明日の正午にここに来てくれ。ではまたな」

一瞬だが、尻尾が垂れて少し残念そうに見えたのは気のせいだろうか……

「それじゃあ」
「またね〜」

ルノアは森の中へと消えていき、僕達は宿に戻った。


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別れてから私は森を駆けていた。
デイルか……なかなか良い男ではないか。あれで強ければ申し分ないのだが。
しかし、既にあのスライム娘がいるようだったし……諦めるか。

尻尾はぱたぱたしたと思ったら、シュンと垂れ下がり、忙しなく動いていた。

悶々としていると集落が見えてきた。私達が暮らしている里だ。
基本的には狩猟と採取で生活している。
今は二十人程のワーウルフと攫ってきた男が八人いる。
しかしどの男も既に他のワーウルフと夫婦になっていた。
我が里は一夫一婦制をとっている。
最近、めでたいことに子供が産まれたばかりだ。
魔物娘の大半は子供が産まれにくいので、
こういう時は皆で祝福し、宴をするのが流儀なのだ。
里に到着すると私は足早に族長のいる家へと向かい、中に入った。

「族長、失礼しますがお耳に入れてたいことが」

そこには切れ長で鋭い眼の全身の体毛が群青色で統一された
長髪のワーウルフが座っていた。

「ルノアか。どうした」
「はい、先程人間からの情報なのですが、
どうやら明後日ここに攻めてくる集団がいるようです」

この方こそが我々の族長である。族長は私の話を静かに聞いていた。

「如何いたしますか?」
「「…………」」

しばしの沈黙の後、おもむろに尋ねられた。

「情報に信憑性はあるのか?」
「おそらく。魔物も一緒にいたので、有力かと」
「……そうか、では皆を集めてくれ」
「直ちに」

すぐさま人を集めに行き、族長の元へ向かわせる。
私が族長の元へ戻った時には、既に話し合いは始まっていた。

『私は戦います!』

『最近になってようやく一人娘が生まれたのに……』

『あなた、大丈夫よ』

『迎え撃って、男を捕らえましょう!』

など思い思いのことを口にしている。
族長は私が戻ったことに気付き、

「ルノア戻ったか。それで、相手の規模は分かるか?」
「いえ……ですが、彼らとは明日また会う約束を取っています」
「では明日ここに連れてきてくれ」
「分かりました」

今日はあくまでも現状維持となった。各自元いた場所に向かって散ってゆく。

残ったのは私と族長だけであった。


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その頃、僕は一人で昨日訪れた酒場にいた。

「マスター、また少し聞きたいことが」
「なんでしょう?」
「今回の討伐に教団側とギルド側から何人くらい集まるんですか?」
「あくまで噂の域を出ませんが、教団からは二十人とも四十人とも言われてます。
遅くとも今日の夜に到着するようですね。ギルド側は多くとも二、三十人といったところでしょう」
「そうですか。色々とありがとうござい
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