乱れ、舞う

今日こそは止めよう。そう脳では思っても、身体の方が言う事を聞かない。迸る感情が制御できない。
(今ならまだ間に合います……。けど)
震える右手が、想一の部屋の戸へ伸びていく。それを止める役割を持つ左手は、先とは打って変わってピクリとも動きはしない。理性が役割を放棄していた。
(想一さん、いやらしい女でごめんなさい)
許しを請いながら、蓮花はその扉を開けた。
室内は主の性格を象徴するかのように整頓されている。クラシックな色合いの机に、かけ布団が畳まれたベッド。部屋の隅に置かれた姿見に、衣類が仕舞われているであろうクローゼット。机の横には子供の背丈くらいの本棚もある。そこに収められている本は文芸書やビジネス書、漫画など種類やカテゴリーも様々だ。
部屋スペースが実際より広く感じるのは、想一がレイアウトにこだわっているからだろう。
調度品も過度な装飾や華やかさは一切なく、彼の実直な性格がそこにも表れている。
(嗚呼……想一さんの部屋、想一さんの匂い……)
息を吸い込むと、彼の残り香が鼻腔に入ってくる。石鹸とシトラスを薄く混ぜたような匂いだ。
綺麗好きな想一は身体を石鹸で念入りに洗っており、体臭ケアにも気を遣っている。
蓮花に不快な思いをさせたくないというのも理由として大きい。
一方の蓮花としては彼の体臭を直に嗅ぎたいのが本音である。だが今はこの残り香を肺に取り入れるだけでも十分だ。
部屋で数回深呼吸しただけで、既に彼女の足元は頼りないものとなっている。
「ふふっ♪」
彼女が次に取った行動は迅速だった。
具体的には、クローゼットの引き出しから想一のボクサーパンツを引っ張り出し、それを勢いよく顔に押し当てた。そして一気に鼻と口で息を吸い込んだ。
洗剤で綺麗に洗い揉まれていても分かった。生地にしみついた愛しい男の匂いが。
(すごおおぉい……。そういちさんのぉ、いい匂いいぃぃ)
狐特有の優れた嗅覚で香りを味わう蓮花の眼が、危ないクスリをキメたかのように焦点を失う。
平日の朝。身体を震わせながら男物の下着を顔に押し当てて悦に浸るという、他人様にはお見せできない山城蓮花の姿がそこにあった。
(しゅごいぃ、これしゅごくいいれしゅうぅぅ)
黒地に販売社ロゴが引かれた、派手さがないデザインの下着。素材はポリエステル百パーセント。価格は一着で二百五十円。特筆すべき所はない。
(パンツぅ。実直でぇ、誠実でぇ、紳士的でかっこいい想一さんのパンツぅ)
持ち主が、想一であることを除いて。
シンプルで色気の欠片もないデザインだが、蓮花には気にならない。
彼が履いていた下着を洗濯したのも、畳んで収納したのも、そしてそれを今オナニーの材料にしているのも自分という事実が、彼女を昂らせるのだ。
「はむっ、はふむうっ、ふむうううっ」
ついに下着を口に咥えた。大和撫子の気品崩壊待ったなしの絵面である。
首筋から額にかけては薔薇よりも真っ赤。吐息は荒くなるばかりで、光のない瞳の端には涙が滲み垂れてきている。
下着を持つ右手はきつく握り締められていて、左手は割烹着の留め紐をするする解いている。蓮花の脳内といえば、これから行う自慰の事で一杯だ。
「ひゅふふっ、ふふふうぅぅ」
妙な声を上げながら身をくねらせ、片手で器用に服の結び目をゆるませていく狐娘。
程なくして、ぱさりと割烹着が彼女の足元に落とされた。続いて薄桃色の下着も。
身に纏っていた服を取り払ったことで、彼女の全容が露わとなる。
端的に言うならば、恐ろしく均衡の整った、かつ色気を持った肉体だった。
まず目を引くのは豊かな胸である。グラビアアイドル級の雄大な双丘は、彼女が動くだけでゆさりと揺れる。だがだらしなく垂れているという訳ではない。ツンと上向きの乳はハリ良し、形良し、サイズ良しの三拍子で男の情欲をこれでもかとそそるだろう。
丸みを帯びた乳房の先端は、直視した相手が女なら嫉妬するほど綺麗な桜色だ。
きゅっと曲線美を描くウエストは細くとも、いい塩梅に肉がついている。女性らしい美の象徴と健康的な印象を見る者に与えるくびれだ。
嫋やかな腰回りはそれだけでモデルと勝負ができそうなくらいに整っている。
そして乳とウエストを凌駕する色気を持つ魅惑のヒップ。
見た男が元気な赤子が産めそうだと確信するほどの桃尻が、今は惜しげもなく外気に晒されている。揉みしだけばさぞいい心地がするのは間違いないだろう。
ちなみに蓮花自身は知る由もないことだが、想一は胸も好きだがそれ以上に尻が大好物だ。
彼が二重ロックしてスマホに保存している秘蔵フォルダは、七割以上がヒップを強調したもの。つけ加えると想一のここ最近の悩みは、蓮花の後ろ姿、とりわけ衣服の奥に隠されている美尻を思って局部が痛くなることである。
さて、閑話休題。
頭頂部から伸びた三角耳と臀部から伸
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