「問おう、お前があたいの夫かにゃ?」「違うわい」

――暑い。
街を出る際に満タンに入れてきた水筒の中身が3分の2以下になったことを意識しながら考えるのは、暑いという事だけだった。
体中ににじむ汗がより不快感を増長させ、ダンジョン攻略用の道具をしまい込んだリュックがただの重荷にしか感じられない。
松明の本数減らすべきだったとか食欲湧かないのに非常用の食料なんて入れなきゃよかった等とうだうだ考えつつも足を運ぶ。
地図とコンパスとにらめっこしつつようやく目的地である遺跡への到着の目途が立つ頃には頭の中は100以上の後悔で溢れていた。

「ようやく、か……遠かったぜコンチクショォ……」

目の前に構えるのはところどころ風化したピラミッドだった。
ここのピラミッドには昔の王様の秘宝が眠っており、それを数多くの罠や魔物が守護している……らしい。
情報屋から高い金ふんだくられて買った情報だが、もしかしたらただのガセかもしれない。

「これで金目のもんなかったらあの情報屋のおっさん怨むぜおい……」

いや情報は正しいはずだと自分に言い聞かせピラミッドの入り口を探そうとまた足を動かし始める。
周辺を半周も歩き回ったであろうか、目の前に突如魔物が現れた。
赤みがかった茶髪に生えるふさふさとした耳、肉球のついたもふもふの手足、そしてゆらゆら揺れる尻尾。
――スフィンクスか、厄介な相手だ――護身用のナイフに手をのばそうとする俺に対し、その魔物はこう言い放った。

「にゃにゃん! あたいはスフィンクスのミミちゃんだにゃん! いきなりだけど婿になってもらうにゃん♪」

……いつからだったかね、魔物が人間の男を性的な意味で欲しがるようになったのは。
魔王が代替わりした影響らしいが、昔の凶暴な姿も知っている自分にはどうにもこの変化についていけない。
代替わり前後問わず冒険者稼業も長いことやってるが未だに慣れそうにもないな、この感覚は。
ナイフを抜き構えるとその魔物 ―ミミっつったか― は笑顔を絶やさずこう言った。

「キミには呪いをかけさせてもらったにゃん♪ 今からの質問に素直に答えないとどうなっても知らないにゃ!」
「の、呪いだと!? 手前なんの予備動作もなかっただろぉ!?」
「高度な魔物は簡単な魅了など朝飯前だにゃん!」
「……っ マジかよおい……」
「ちなみにホントに朝御飯まだなんだにゃん……もうお昼なのに……お腹すいたにゃー……」
「んなこと俺に言われても知らねえよ!」

気が抜けやがる……昔の魔物はグギャァァとかゴシャァァみてぇなことしか言わなかったのに今の魔物は変に愛嬌があるから困る。
見た目も麗しければ声も綺麗で本当に困る、昔はザ・化物って感じだったのにどうしてこうなった。

「それじゃ最初の質問だにゃん。お名前教えてほしいにゃぁ」
「……それ聞いてどうするんだよ」
「将来の旦那様の名前くらい聞いてもおかしくないにゃん?」
「結婚する気満々かよ、こちとらどうにかお前を出し抜こうとしてるんだがね」
「こっちは出し抜かれないように虎視眈眈としてるにゃん、いや猫視にゃんにゃんだにゃん」
「つまんねぇぞソレ」

何が猫視にゃんにゃんだ馬鹿らしい。
こっちは感覚を研ぎ澄ましてどうやってこの局面を突破しようか考えてるって言うのに。

「し、知ったこっちゃないにゃん! サッサと答えにゃいと後が怖いにゃん!」
「はいはい分かった分かりましたよ。俺はギンジだ」
「ふっふ、ギンジだにゃ。その名きちんと覚えたにゃん」
「たった3文字だからな、覚えてもらわなきゃ反応に困る」
「それじゃ次の質問にゃ! ずばり聞くにゃ! 女性経験はもちろんないよにゃ?」
「いやあるけど」
「NOOOOOOOOOOOOOOOO!? え、あるのにゃ、あるのかにゃ!?!?」

騒がしいヤツだなこいつ、何年も渡り歩けば娼婦の世話になることもあるっての。
まぁ知り合いの冒険者が娼婦だと思った相手がレッサーサキュバスだったらしくそのまま結婚したって話を聞いて以来は行ってないが。
ちなみにソイツはそれなりに幸せな家庭を築いてるらしい。

「なんで!? 魔物に手をつけられた匂いはしないにゃ!? でも嘘ついてないっぽいにゃ!?!?」
「人間相手だよ、つか魔物って匂いで魔物に襲われたかとか分かるのか」
「そりゃわかるにゃ。 ギンジは魔物に食べられた匂いしにゃいから……ってなんでお前があたいに質問してるにゃ!」
「知った事かよ。んで俺が経験ありだって分かったところで解放してくれたりは」
「いや構わないにゃん! 過去は笑って流してやるのも良妻の務めだにゃん!」
「結婚したおぼえなんぞないしするつもりもないっての、つかお前顔思い切りしかめてるぞ」

ちょっと思い込み激しいし騒がしいが面白いヤツだなこいつ。
漫才やってるみてぇでちょっと楽しくなってきたと不覚にも今
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33