正夢で逢えたなら

――今日もまたあの夢を見るのだろうか。

ベッドに潜り込んでそう考える。
ここ1か月近くもずっと全く同じ内容だった。
夢占いを取り扱ってる易者を知ってはいるが相談するのも憚られる。
なにせ内容が『目が覚めるような美人に犯される』というものなのだ。
いや、夢なんだから目が覚めるようなと言うのはおかしい表現か。
まぁ何はともかくすごい美人だと言うのには変わりはない。

――ほんとすごい美人なんだよなぁ。

腰に届きそうなほど長い髪は透き通るような水色で跨られるたびに揺れ動いていた。
自身の上で激しく動くから、髪だけではなくたっぷりと肉のついた胸も縦横無尽に揺れる。
視線を上にずらせば端整な顔は嗜虐的な色を含み悦びに満ちていたのを夢だと言うのに鮮明に覚えている。
そして下半身を見遣れば俺のモノを女性器が激しく咥えこみ、すらりと伸びた足は……

――やっぱり、思い出せない……

そう、思い出せない。
先ほど鮮明に覚えていると思ったはずなのになぜか下半身の方は記憶が曖昧だ。
初めてこの夢を見た日からずっと思い出せないのだ。
そんな風に色々と考えているうちにまどろみに沈んでいくのが常だったが、まだ眠くなってこない。
普段なら目を閉じて数分もすればあの夢を見ることになるのだが、今日は夢以外にも気になることがあったのだ。





俺は親魔物国家にある道具屋で働いている。
冒険に欠かせないような薬草から家事に使うような日用品まで幅広く扱っている。
俺の雇い主がサキュバス夫婦なので、魔物御用達のえっちいことに使う道具なんかもある。
その雇い主である夫婦から呼び出しをくらったのは今日昼過ぎのことだった。

「コータ、ちょっと良いかい?」
「なんですか店長、いちゃつきながら呼ばないでくださいよ」
「いいじゃないの、私達の絆は切っても切れないのよ?」
「絆が繋がってるなら手くらい離して下さいよ副店長」

商品管理のノートにペンを走らせる腕を止めて二人の方を見る。
ちなみに夫のライトさんが店長でサキュバスのアイリンさんが副店長である。
仕事中でも暇さえあれば手をつないだりするのはちょっと、いやかなりやめてほしいが良い人たちだ。

「いやよ、心でも体でも繋がっていたいのが魔物なのよ、覚えておきなさいコータ」
「はいはい肝に銘じますよっと……で、何の用です?」
「うん、コータには明日にでも店の方に入ってもらおうと思って」
「……はい?」

俺が疑問に思ったのには理由がある。
この店は魔物が経営しているということで多くの魔物が来店する。
先述したえっちい道具なんかも結構売れ行きが良かったりするのだ。
そして来店する魔物の中にはあわよくば商品以外に店員もイタダこうとする者らがいるのだ。
それを避けるために店の掃除や店番なんかは既婚の人が、事務室での裏方を独身の人がするのだが……。

「店長、俺独身ですよ?」

そう、生まれてこの方俺には一度も彼女がいないのだ。
そんな俺が店の方に移動だなんて疑問に思うのも当然と言えよう。
しかし副店長の方がさらに謎な言葉を発してきたのだ。

「大丈夫よ、コータにはもう匂いがたっぷりついてるし」
「はい? においですか? 俺って臭いですかね」
「そうじゃないわよぉ、魔物の匂いがついてるのよ」
「え、俺に相手なんて居ないですよ?」
「まあ店の仕事に移動は決定だから。よろしく頼むね、コータ」

手を絡ませて移動していく二人を見送る俺。
魔物の匂いとかなんとか言われたが自分には全く身に覚えがない。
そんな風に考えながらも今日の仕事をしようとペンを再びとりデータを記入していった。





そうだ、明日から店の方に移動なんだよなぁ。
少し前に店で仕事してる先輩が引っ越して仕事をやめたのでその埋め合わせだろうか。
事務の仕事は店長たちの補佐の割合が大きかったので人数が減っても問題ないのだろう。
けれど独身の俺が店番なぁ……というか魔物の匂いって一体……
目を閉じながら色々と考えていると、物音が聞こえてきた。

――何の音だ?

夜の静寂のためほんの小さな音でも気になってしまう。
どっかの部屋の窓でも閉め忘れたかと目を開けたら目があった。
目があったというのは眼球だけが存在していたのではなく(そんなのホラーだ)視線があったという意味で。
瞬きをしてもう一度よく見てみると、俺の顔を覗き込んでくる人が居たのだ。

「……ぇ?」
「わ、あの、えっと……うぅぅ」

暗闇に目が慣れて全体像が見えてきた。
ショートカットの髪だが前髪は長く目が隠れそうなほど。
少し視線をずらせば真っ黒い服に包まれた豊満な胸部が目に入ってくる。
さらに視線を舌の方にずらすと馬の下半身を持っていることが分かる。
その魔物は驚き戸惑っている、いや驚いたのは俺の方なのだが。


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