そこに立っていたのはウィルマリナ様であった。
水色の髪は闇夜の中でも綺麗な輝きを放っており、純白の服も威厳がある。
――なぜウィルマリナ様がここに?
俺がそう思うのも至極当然だろう。
子どもの頃ならいざ知らず、今の彼女はこの国の希望を一手に背負う勇者様なのだ。
一介の兵士である俺のもとへわざわざ訪ねてくる理由など持ち合わせていようはずもない。
考えても答えなど分かりそうもないので、その疑問を直接ウィルマリナ様に尋ねる。
「どうなさいましたか、ウィルマリナ様?」
「……あははぁ♪」
「? ウィルマリナ様?」
俺の耳に何やら淫猥な響きが染み渡ってきて、語尾が不意に上がってしまう。
先ほどの彼女の声は、多くの国民を前に演説をしていたあの凛々しい声ではなかったのだ。
一体何がどうなっているのか、とさらに疑問が浮上してくる。
そんな俺に向かって一歩近づいてくる彼女、そして俺は先ほどまで闇夜に紛れて見えてなったあるものの存在に気付く。
「……ウィ、ウィルマリナ様!? そのお姿は一体!?」
そう、微笑みながら近づいてくる彼女には角や翼、尻尾が生えていたのだ。
その異形の存在に気付くと、先ほどまでは普段とまったく同じに見えていた彼女の服装も変わっていく。
清楚で高尚なイメージを与える白を基調としたものではなく、露出の多い黒を基調とした衣服。
赤く染まっている頬や大胆に露出した胸元にはうすい青色をした文様が浮かんでいる。
そして彼女の目は強い意志を感じさせる青ではなく、とても深く引きこまれそうな深紅であった。
――ま、魔物……ッ!
そう、魔物。
目の前にいるのは勇者ウィルマリナではなく、魔物の姿へと変わり果てた存在だった。
さらに一歩近づいてくる魔物に、思わず腰を抜かし後ずさりする俺。
武器になるものを探そうとするも、訓練所の保管庫にしか武器は無いのだ。
一歩、さらに一歩とどんどんと歩み寄ってくる魔物に対し後ずさっていくしかできない。
そんな情けない俺に対してその魔物は顔を少し悲しげにしてこう言った。
「ねぇ……なんで逃げるの? 私はあなたが欲しいだけなのに……」
「く、来るな……ウィルマリナ様の姿で来るなっ!!」
そう、目の前にいるのは魔物だが、たとえ魔物でもウィルマリナ様なのだ。
俺がまだ小さくノースクリム家に住んでいた頃、一緒に遊んだウィルマリナ。
兵士になりたての頃、国民たちを前にして堂々としたお姿で演説していたウィルマリナ様。
訓練に慣れてきた頃、偶然通りがかって一兵士の俺にアドバイスしてくれたウィルマリナ様。
彼女は俺の憧れなのだ、彼女との出来事は俺の大切な思い出なのだ。
――ど、どうすればいいんだ……。
教団の教えでは魔物になってしまった者たちは二度と人間に戻ることはない。
すなわち討伐対象なのだが、無防備な俺に攻撃など出来やしないし、そもそも実力が違いすぎる。
なす術もなくただ後ずさりしていくが、彼女の尻尾がこちらに伸び、俺の背中へと回り込んでくる。
「ふふっ、捕まえた♪」
「やめろ、来るなっ、来ないでくれぇっ!」
尻尾で腰に巻きつき、彼女は前かがみになり腕を俺の首へと回してくる。
俺の上に跨り腰掛けたかと思うと、彼女は顔を俺の方へと近づけてくる。
ゆっくりと近づいてくる顔は赤く染まっており淫らな様子しか窺えない。
そして彼女の顔が俺の視界を占めるころには、唇同士が触れ合っていた。
いや、触れ合うだけではない、舌が侵入してきてねっとりと絡み合い、彼女の唾液が流れ込んでくる。
首に回された腕が俺の髪をなで、背中にまとわりつく尾が背中を動き、足の上に座り込む彼女はもじもじと身体をうねらせる。
数分もの間、彼女の甘美な匂いにむせ返りそうになりながら俺はそのまま口の中を犯されていた。
「ぷはぁ♪ ずぅっとこうしたかったのぉ!」
「な、何を一体……」
「あなたとこうやって繋がりたかったのぉ♪ 勇者なんてどぉでも良かったのぉ♪」
「ウィルマリナ、様?」
「そんな呼び方しないでぇ! 昔みたいにウィルマリナって呼んでよぉ!!」
そう言うや否や、彼女はまたも俺の口を蹂躙していく。
送り込まれる彼女の甘い唾液に、俺の思考は少しずつ蕩けていく。
魔物の体液には催淫効果があるのだろうか、気がつけば俺の方から舌を絡ませていた。
唾液まみれになった舌を絡ませ合い、呼気さえも混じりあわせて淫らにむしゃぶりあった。
「ぷはぁ、おいし……♪ ねぇ、名前で呼んでよぉ♪」
「ウィ、ウィルマリナ……」
「もういっかい呼んでぇ♪」
「ウィルマリナぁ……」
「ふふ、嬉しいなぁ♪ もっと早く自分に素直になってこうなりたかったなぁ♪」
――素直に? ……俺を好いてくれていたのか……。
どろどろの快楽に蕩け切った脳髄でもそう理解できた。
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