狙うはチーズ輸送船

輸送船はチーズを乗せて、大海原をゆらりゆらりと進んでいく。
輸送船の船長室で、パルメザン船長とルイ一等航海士は平和な航海に二人揃ってあくびを漏らしていた。

「ふぅ……航海は順調ですね、船長。順調すぎて私も甲板で指示することが無くなりましたよ」
「うむ。今回は何も起こらず済みそうだ。海の向こうですら欲しがる高級チーズだから、誰かに狙われると思ったが」
「はははっ、海賊のことですか? 海賊はわざわざチーズなんて狙わないでしょう。襲われたとしても武芸には自信がある者がいますのでね」
「そう……そうだな。ではこの平和な航海に乾杯するか。少し倉庫からチーズを拝借するとしよう」
「いけませんよパルメザン船長。売り物なんですから」
「なに、少し減ったところでバレやしない。知っているのは君と私だけだ」

パルメザン船長は気分よく立ち上がろうとすると、船乗りの一人であるチェダーが血相を変えて飛び込んできた。

「せ、船長!!」
「チ、チェダー君!? あ、いや、これは冗談だ、その」
「え? 何の話ですか?」
「む、違うのか」

パルメザン船長は安堵で胸を撫で下ろすが、船乗りの報告に再び顔色を変えることになる。

「海賊が出ました!!」
「「!!」」

パルメザン船長とルイ航海士はその報告を聞くと甲板上に飛び出し、あれだけ快晴だった空に霧が立ち込め始めている事にまず驚いた。
しかし、ルイ航海士は冷静に現状を確かめる。

「海賊はどこです?」
「あそこです!!」
「む、なんだあの旗は……ほんとに海賊か?」
「あ、あれは!?」
「知っているのか、ルイ君!?」
「え、ええ、あくまで噂ですが……黒い三つ丸鼠模様の下に剣が交差しているという、何処かの夢の国の著作権に触れそうな世にも恐ろしい旗を掲げ、ブリガンティン船とは思えぬ速さで鼠のように縦横無尽に海原を駆り、船員たちは皆チーズを奪う為にはどんな手も使ってでも奪うといわれる海賊ですよ。馬鹿らしい法螺話だと思っていたのですが、まさか実在していたとは……」
「そうだ……船にあるチーズの匂いを嗅ぎつけたんだ――あの、海賊ねずみ団が!!」

船員の一人サレールが放った可愛らしいネーミングに船員たちの気が抜けるが、サレールが顔を蒼白にして叫び、あの冷静沈着なルイ航海士までもが取り乱しているのだ。名前で気を抜いてはいけない相手ということだろう。

「面舵一杯! 進路変更! 逃げきれなかった場合を考え皆の者戦闘準備だ!! 砲台を用意しろ! 武器を取れ! チーズを奴らに奪わせるな!!」

パルメザン船長の一括により、それまでおろおろとしていた船員たちは、各々の役割を思い出し、甲板上を駆け回りはじめた。

●●●

一方、海賊ねずみ団と仇名された海賊船甲板上では、何十匹ものラージマウスたちが輸送船から漂う隠し切れないチーズの香りに狂喜乱舞し、せわしなく走り回っていた。

「おかしら! チーズのにおいがするふねがみえてきたよ!」
「ああ、うん、大丈夫だ。俺にはさっきからずっと見えてる」

お頭と呼ばれた男は目の前でぴょんぴょん跳ねるリルカを抑えながら、こちらに気付き進路を変更し距離を取ろうとするチーズ輸送船を遠眼鏡ごしに睨む。

「カレル、合図は?」
「た、たったいまおくりました! もうまもなくでしゅっ……です……うぅ」
「ふ、俺たちゃ、チーズさえ頂ければそれでいいんだ。悪く思うなよ――あと、噛んだからって落ち込まなくていいんだぞ、カレル」

海賊ねずみ団の報告係であるカレルはよく噛む。そしてすぐ落ち込む。報告係としては致命的だが、言い表せない愛嬌があるのでカレルの意思に関わらず各持ち場への報告係を任されているのだ。

「ねぇおかしらぁ、わたしは? わたしはなにすればいい?」

リルカは、興奮した様子で男の体をぐいぐい押している。ラージマウスの体格は個体差はあるが、皆一様に小さい。特にリルカはその中でも小さいので、男の丁度股間部分に顔を突っ込んで腕を回している状態になっているため、いろいろと問題がある。小さな耳と先の細いしっぽは激しく暴れるように揺れているし、今回は何時になく張り切っている様子で、活躍したいという意気込みをひしひしと男は感じてしまう。
男は適当にあしらうだけではリルカは離れてくれないと諦め、リルカに一つ役目を与えることにした。

「よし、ならお前は……そうだな。戦いが始まれば、戦闘後にスムーズにチーズが奪えるようチーズのある倉庫を探してきてくれ」
「え!? いいの!?」
「ああ、だが分かってると思うが、つまみ食いはなしだぞ。……そして、こっちが大事だが……お前一人で戦闘になる場合はまず逃げることを考えろ。俺たちの戦いの基本はスリーマンセル、銃口を向けられたら逃げる。よそ見すりゃ背後から飛びかかる。わかってるな
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