4話 身も心も朧げに

温泉街の一角、決して大きく豪奢とは言えないがそれでもそこそこの大きさの温泉宿に泊まり、今は2人で湯舟に並んで浸かっている。

風呂ばかりはさすがに器具を外しても良いということで今は外している。
露天風呂なので空が見え、星が綺麗だ。隣の花にはかなわぬが。


セルカ「…ちょっと……恥ずかしいですね……」

周囲には他の観光客だろうか、一応人がいる。最も、この風景は働いている最中何度か目にしているのだが。
こういう時は邪魔をしないのが1番だ。そっとお酒を用意して渡す、そんなことをする時もあった。ここでは働いていないので出来ないが。

「そうですか?元々働いてましたからこの風景には慣れてますし、皆お相手に夢中でしょう。恥ずかしくて目を逸らさない限りは」

さすがに真横にいる人物を直視するのは恥ずかしくて、度々空に目を逸らしていたことを謝る。
とは言っても、客として浸かるのは初めてなのだが。

セルカ「誰かと一緒に入られたことが?」

きっと女性と入ったことがあるのかという質問だろう。ちょっとからかいたくなった。

「えーっと……一緒に働いている方と何回か」

セルカ「そう…でしたか……」

しょんぼりしているのが可愛い。可愛いのでちょっと距離を詰めてみる。

「ええ。お肌が弱い方だとちょっと…なので入って確かめたりしてるんです。後は営業時間の前後に掃除で入りますね。大きいので何人かでひとつの湯舟を担当するんですけどね」

セルカ「あっ……そういうことでしたか………」

膝を立てて、尻尾を巻き付けて俯く彼女。互いの肩が触れる位までまた近づく。

「…そういうば、僕の国では昔から人に愛を伝える時に何かと遠回しの表現をすることがあるんです。誰かを何かに例えて一緒に褒めたり、比較の対象にしたりとか」

セルカ「……ソラさんは……どう思い…ますか?」

尻尾が腕に絡みついてくる。

「……そうですね……大好きですよ。落ち着けますし」

セルカ「……………」

またしても俯く彼女。でもさっきのいじわるの時とは違って絡みついている尻尾はしっかりと腕に巻きついていて、なんだか嬉しそうだった。

「ちょっといじわるでしたか?」

セルカ「…いえ、嬉しかったです…」



ワーム「次はあっちに行ってみましょう?」

男性「いいね。行こっか」

ある程度浸かると次のお風呂を楽しむ人達。透明度の高く、視界の良い屋外のお風呂よりも湯気が立ち込めて、保湿か何かに優れているのか不透明な湯舟に密着するような形で何組かが浸かっていた。


セルカ「……ソラさんは…人の上にいるか人の下にいるか……どちらが合っていると思われますか…?」

身体を寄せ合っているとなんとも抽象的な質問が来た。
立場以外にも人の上下というものは表せるものがある。

「…上か下かというより、横…出来れば真横がいいですね。対等でありたいです」

セルカ「なら…」

そういうとあぐらをかいた上に座る彼女。

セルカ「……どうします?」

考えようによっては彼女が上なのかもしれないし、こちらが下なのかもしれない。

「なら、こうします」

少し背筋を伸ばして彼女を抱きしめ、身体を丸める。比較的小柄な彼女は包み込まれるような形になった。

セルカ「こっ…これは……」

「湯船の中は僕が下ですけど、湯船の上は僕が上ですよね?これが答えの例です」

真っ赤になる顔、強くなったり弱くなったりする力。
自分の立場を決めかねているのだろうか。ワイバーンやドラゴンにはもしかしたら上か下かのどちらしかないのかもしれない。

セルカ「あっちの……壺のお風呂行きませんか…?」

消え入りそうな声と共に翼で指し示すのは人が1人2人入れそうな大きさの壺。
ジパングにもああいうものはあった。

「もちろん。このまま行きますか?」

セルカ「……並んで……歩きましょう?」





移動してもあまり変わらなかった。男性なのになんだか母親に抱かれているような、そんな気持ち良さで。

空「大丈夫ですか?」

働いていたからなのか、この温泉に浸かっていても彼は全く変化が見られない。
こちらはもう限界。早く上がってしまいたい。

「…予定は変わっちゃいますけれど……もうちょっと色々見ませんか?……闘技大会とか…」

空「闘技大会ですか?気になるね。行ってみよう。」

他人行儀の口調から親しみのある口調へ。本人は気づいていないのだろう。

「…旅行が終わったら…帰っちゃう…の?」

帰っちゃうんですか?と言いかけて言い直す。ずっと居てくれたらいいのに。

空「そうですね、今回は旅行の為のお金しかありませんから。もっと必要ですし」

今回はという言葉。期待していいのだろうか。

「………まだ初日ですけれど…とっても楽しかった……もっと…ち
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