竜の舞う山、百火の竜王・前編

森を抜けた二人は近くにある町を目指し街道を進む。館の執事エルンストから貰った地図では山を登っていくと次の町があるのだと言う。
 山に入った道は徐々に険しくなり、レナの隣を歩くマールの足どりは少し重い。
「次の町へは後どれくらいでしょうかレナさん。」
少し疲れた様子を見せるマールに対し、彼を背負って森を抜けていたレナは
息一つ乱さないで問いかけに答える。
「もうすぐ着くわ、大丈夫?」
「はっはい、大丈夫です、問題ありません。ってうわぁ!」
そう答えつつ足元の段差につまづき転んだマールを支え抱きかかえたレナは、顔を赤くして目をそらすマールを見て少し笑って再び彼を背負う。
「疲れたのならそう言いなさい。
これ位ならいくらでもしてあげるんだから。」
「でも…」
「"でも"も"だって"もありません。」
「む〜」
レナの言葉に唸るのみのマール、レナはその会話の中に懐かしさと安らぎを感じていた。


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夕日差す山道を進むレナ、険しい道の向こうに大きな門が見える。金属製の大きな門は遠目で見ても頑丈であると推測できる。
「開いてないわね。今日泊めてもらえればいいのだけれど。」
「大丈夫ですよ。きっとなんとかなりますよ。」
レナの背中から降りたマールが門の前に向かう。その時だった。
「危ない!!」
マールを下がらせるレナ、彼のいた場所に矢が刺さっている。
「うわぁぁぁ!」
一瞬遅くマールの叫び声が聞こえる。自分の置かれている状況に気付いたらしい。
「誰なの!姿を現しなさい卑怯者!」
レナの呼びかけに応じて物陰から青年が姿を現した。
 まず印象に残るのは冷たく鋭い眼光、それだけで気の弱い人なら殺せそうである。血の色をした赤毛に顔や体に施してある刺青、背は高く体格も良いが、目つきの悪さにより近寄りがたい雰囲気をかもしだしている。
「今、外の人間を入れるわけにはいかない。貴様等が里に危害をもたらすかも判らないしな。
死んでもらおうと思っただけだ。」
無愛想にそう呟いた青年は腰に差してある二本の曲刀を抜き中段に構えをとった。
「マール、気をつけて。かなり出来るわよ。」
「…」
言われるまでも無く集中しているマールの周囲には魔力が渦巻いている。
「いくわよっ!」

『せかいをめぐるかぜのうたよ、われらにやどれ
【複数速度強化(エリアスピードプラス)】』

レナが剣を構え突撃するのと同時にマールの強化魔術が発動する。レナの速度の上がった剣を避けつつ距離をとって懐の短刀を投げる青年、レナの剣によって弾かれた短刀はちかくの地面に突き刺さり、気配もなくレナに近寄っていた青年の曲刀がレナの首に届きそうになったところに

『まいおりしひょうけつのしっぷうよ、とうてんのみこよ、
そらにいてつくはなをさかせよ
【永久凍土の烈風(ゼロ・ブラスト)】』

 氷の刃を伴った突風が青年を襲う。氷の刃を寸でのところで回避した青年は自らの体に起きた異変に気付く。
足元が凍りついて動かないのだ。しかし、目視できる程の魔力の渦を纏った少年の魔術は止まらない。

『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』


『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』

『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』
『はがねのいしよ、せんこうとなりててきをうて【尖突雷撃(エレクアロー)】』

魔力の渦に反響して無数に響く詠唱は、全てが敵を討つ意志を持って青年に飛んでいく。無数の雷撃は回避する術のない青年に直撃した。



 しかし雷撃の跡から出てきたのは緑色の鱗と翼を持つ女性と、女性に守られた先ほどの青年だった。
「これはどういうことなの、サイード。」
サイードと呼ばれた青年は突然現れた女性に目もくれずに町の方へ歩いていた。
「興が冷めた、そいつらは好きにすればいい。」
「サイード!!」
竜の女性は自分を叱る女性の声にも動じずに町の中へ入った青年を見て、ため息をつきつつ彼と交戦していた二人に向き直った。
「彼が迷惑をかけてごめんなさい。あなた達は見たところ宿を探しているようだし、条件さえ守ってくれれば私の家に泊めてもいいけどどうかしら。」
太陽は沈み、茜色の空は紫色に色を変えつつある。夜になった山道は様々な面で危険だ。
 マールとレナは顔を見合わせた。それだけで二人の意見はまとまる。
「ご好意にあまえて。」
「それじゃあよろしく。え〜っと、」
何か言いたそうなマールを見た竜の女性は少年の人の良さを感じ微笑んだ。
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