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…寝苦しい。黒いベッドの中に入って眠っていたマールは、
不意に感じた寝苦しさに目を覚ました。
体を起こそうとしたとき、彼は体に違和感を感じた。
(体が動かない…魔術でしょうか…)
『ゆうへいされしめがみよ、われにひかりを、ねがわく…』
「…!!」
マールが唱えた上位の解呪魔術はその役目を果たす前に沈黙にかき消された。声が出ない、マールの戦闘能力はこの段階でなくなっていた。
「ふぅ、驚いたわ。まさかそんな上位の魔術を使えるなんてね。」
マールの目には暗闇の中でぼんやりと光る少女が映されていた。
「…!!!」
怯えた表情で口をぱくぱく開閉させるマール。それを見た少女は笑って言う。
「ふふふ、心配しなくても大丈夫よ、悪いようにはしないわ。」
少女の手がマールの額に触れたとき、マールは再び眠りについた。
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黒いカーテンの隙間から朝日が差す。目を覚ました私は黒いベッドの中にいた。森の中で迷った私たちはこの館に一晩泊めさせてもらっていた。
「早く街道に戻りましょう…」
私はそのとき自分の中の胸騒ぎに気付いていた。嫌な予感がしたのだ。
廊下に出た私はマールの寝室のドアを叩く。返事はない、
「入るわよ、マール。」
警戒を強めながら部屋の中へ入るレナ、しかし、部屋の中には誰もいない。
それならトイレに行った、先に下に下りて朝ごはんを食べている、など考え付くことは多々ある。
「これは…おかしいわ…」
ベッドは綺麗なままだった、まるで使われていないかのように。
あの子のことはよく分かる、こんなにベッドを綺麗には出来ない。
「今行くわ、マール。」
またしても彼女の戦いは始まるのであった。
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テーブルの上に食事が並んでいる。今日の献立はジパング風にしてみた。
米は釜で様々な具材とともに炊いたものであり、昨日から用意していたもの。焼き魚は今朝、森の川で釣ってきた新鮮なものである。
趣味の一環として地下室で作っていた味噌の出来も素晴らしいもので、わかめと豆腐の入ったミソスープも我ながらなかなかの出来だと自負している。テーブルに並んだ食事を見ながらエルンストは思い出す。
(あの少年、マール君のあの目で見られたら頑張るしかないよなぁ)
マールの目は輝いていた。尊敬のまなざしで見つめられたエルンストは、彼とその恋人?(断言は出来ない)に素晴らしい朝のひと時を楽しんでもらうつもりだった。
「お客様、これは一体どういうことでしょうか?」
「マールがどこにもいないの。どこにいるか知らないかしら。」
首筋に当てられた金属が接触面を少しだけ増やす。
「落ち着いてくださいお客様。マール様の居場所は私にも分かりません。」
「心当たりは。」
どんどん冷たくなるレナの声、問いに答えなかった場合、彼女はエルンストを躊躇なく殺すつもりだろう。
「心当たりは…あります…案内しますのでついてきてください。」
(朝食が冷える前に)
(大変なことになる前に)
二人の思いは違うものだ。しかし、確かにマール救出の方向へ進むのであった。
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エルンストに案内されて辿り着いた場所、そこは館の最上階、装飾過多な黒い扉の前であった。
「ここは何?」
尋ねるレナにエルンストは顔を少し厳しくして言う。
「ここは、この館の主"アナスタシア・エクリプス"、お嬢様の私室兼仕事部屋です。さて、」
「お嬢様、部屋に入りますよ。」
ポケットの中から鍵を出して鍵穴に入れるエルンスト、しかし鍵は鍵穴に入ることはなかった。
「これは一体…」
「やはりお嬢様でしたか。」
額にほんの少し青筋をたてたエルンストはポケットから何枚か紙切れを取り出した。
「少しの間下がっていてくださいませお客様。」
レナを自分の後方に下げて紙切れを放るエルンスト、紙切れは扉の角四箇所に張り付く。
【四連爆力符】
エルンストが放った符術は脅威の精密さで扉を必要最低限に破壊する。
「マール!!」
壊された扉の奥でレナが見たもの、それは…
「あ、レナさんどうしたんですか?」
「まったく…騒がしいわよ、エル。」
黒いフリルのついた黒い服を着た幽体の少女は椅子に座って呆れた顔でこちらを見ている。絵描き見習いの少年は少しこちらを見ると、再び手元の絵に集中する。そして、
「できましたよ、アナスタシアさん。」
完成したと思われるマールの絵には、黒い服を着た少女アナスタシアが描かれている。その黒い服と
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