お客さん、そろそろ町に着きますよ。それにしても変わってますね、子供連れでこんな田舎町に行こうだなんて。妹さんですかい?え、私は子供じゃないって?はは…失礼しました。
ところで、この町の名産品を知ってますか?血のように紅い林檎です。紅ければ紅いほどに甘い。今が旬ですからきっといい林檎が食べられますよ。
でもこの町の噂を知っていますか?林檎が紅くなる季節、丁度今頃ですかね、町の外から来た人が消息を絶っている。一人や二人じゃない、生きて帰ってきたヤツはいないって話です。この町が林檎で有名になり始めてからですよ。だからっていうんですかね、一部の商人の中ではあの林檎はこうも呼ばれているんですよ。
旅人の雫(ブラッドキャンディ)
じゃ、俺はここんとこで失礼しますね。俺は消息を絶ちたくはないんで、迎えには来ませんよ。多分無駄ですから。
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彼らがこの町に着いたのはもう日が西に傾いた頃だった。私の持っていた林檎が夕日に焼かれいつもより紅かったことが強く記憶に残っている。
一人は青年だった、見た目では年齢は十七、八位に見える。金の髪に空の色に似た青い瞳、整った顔立ちは彼を幼く見せるがその落ち着いた雰囲気が彼が少年ではなく青年であるということを語っている。純白のコートには汚れ一つ見えず、コート自体もこんな田舎町ではなかなかお目にかかれないような上質な材質で作られているのか夕日を浴びると星屑を散りばめたかのように輝く。十字架のような物を背負っており、それは全体が金属で作られているようで見ているだけでもその重量感が伝わってくる。
彼の頭から目線を下げると丁度胸の辺りにもう一人、金髪の少女の姿が見える。宵闇の中の月のように輝く金の糸は血のように紅いリボンで二つに束ねられている。夜と朝の狭間のような淡い紫の瞳は見ていると女の私でも吸い込まれるような危うい魅力を感じる。隣に立つ青年の衣装とは対照的なフリルの付いた黒いドレスは星が浮かぶ夜空のようだ。
「すいません、宿を探しているんですけど。」
気がつくと困った顔の青年が私の顔を見ていた。彼らの顔を見て立ち止まっていたのだから当然かもしれない。
「申し遅れました、僕の名前は"セイン・クロスファング"この子と一緒に旅をしています。」
「さっきからじろじろ見てたけどコイツは私のものよ。」
可愛らしい人形のような外見に相応しい鈴のような声が聞こえてくる。
「私の名前は"イリーナ・アルメリカ"、コイツの飼い主よ。」
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目の前の少女は僕達の自己紹介の後も僕達を見つめたまま動かなかった。やはり今のイリーナの自己紹介から怪しまれたのだろうか。それにしても初対面の人に僕の事を飼い犬呼ばわりで紹介するのだけは勘弁してほしい。怪しまれる怪しまれない云々よりともかく僕の人間性を勘違いされてしまう。
「宿屋まで案内します。」
そんなことを考えていると目の前の少女はそう言って村の奥まで歩いていく。少女についていくと彼女の行く先には他の建物より大き目な建物が見える。その建物の前には宿屋と酒場の看板が立っている。
「へぇ、結構良さそうな宿じゃない。」
ここは彼女の言うことに同意する。目の前にある宿は確かに大都市にあるような一流の宿ではないが、この田舎町にしては中々上等な建物である。周りを見渡しても同じような建物が数多く立っている、一見全てが古い木と石で造られた建物だが、よく見るとその中に都会でも良く使われる最新式の建築法を使って建てられた建物も見える。山中に作られた町にしては洗練されている街並みには若干の違和感を感じる。
「……気を付けて。」
「おい、早くしろ置いていくぞ。」
少女の蚊の鳴くような囁きはイリーナの僕を呼ぶ声によってかき消された。
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宿の中に入った私達を迎えたのは宿にも酒場にもあり得ない静けさだった。宿屋のカウンターに立つ主人は険しい顔で私達を見つめていた。酒場には人一人としていない。当然だろうか、私達をここまで連れてきた行商人は言っていたのだ。この時期にこの町に来る旅人はいないと、酒場に人がいないのも当然かもしれない。
「……何泊で。」
宿の主人は無愛想な男だった。業務を一言だけで済ませ林檎を齧る男はただひたすらに無礼であった。
「2泊でお願いします。」
私の隣にいるこの男、コイツは本当に男なんだろうか。あれだけ無礼な態度を取られても何も言わずにへらへらと笑っている。怒りから宿の
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