「ーーなるほど、ね」
「うう、そうなんですよ……」
「ああ、分かるよ」
あたしは彼女の言葉に頷きながら手元の紅茶を啜る。
既に三杯目だが、しっかりと熱湯をたたえたポッドが用意されているため飽きずに美味しく味わうことが出来る。
ダークエルフの少女から洗いざらい聞き出すのに、メニューを注文しサンドイッチと紅茶を口にし、デザートの苺のタルトに手を出すくらいの時間を必要とした。
「今度会おうって、手紙に書いちゃって……。けど、今になって怖くなっちゃって。私は、その……嘘を、ついてきましたから」
同じ苺のタルト(元々彼女が勧めてくれた物だ)をつんつんと突き刺しながら彼女は俯く。
全てを聞き出すまでに、いろいろなことを話した。
ペンフレンドの相手が、あたしの後輩であるホッズであること。
彼女がテレ調教の紙を貼ったのは直接出会って調教する自信がなかったからだということ。
ホッズから手紙をもらったときは、本当に嬉しかったこと。
初めての調教で勝手が分からずに、とにかく一杯書いたこと。
調教の様子を細かく書いてきてくれて、女王様と慕ってくれる彼が、大好きになったこと。
どうしようもなく会いたくなったこと。
そして、ホッズに『今度のフラワーフェスタの時に、調教の成果を見せなさい』と書いた手紙を送ったこと。
送ったのはよかったのだけど、途端に怖くなったこと。
そして、少しでも彼を知っているあたしに声をかけたこと。
「偶然、だったんです……あの、ホッズ君が、貴女の後輩ってことは最初知らなくって……」と、どこか恥ずかしそうに、彼女は語っていた。
何度も何度もつっかえて、そのたびに謝ったり、真っ赤になりながら彼女はそれらを話し終えた。
彼女のタルトは何度も突かれ過ぎたせいで口もつけられずにボロボロになっていた。
「嘘、か」
「……はい」
頬杖を突きながら、小さく呟く。
あたしも、覚えのある話だった。
ガサツな自分を隠して、文章をできる限り可愛く書こうとしていた姿を思い出す。
「でも、会うって約束しちゃったんだろう?」
「は、はい……『女王様に直接拝謁できるこの幸せ、身に余る思いです』って……ここで裏切ったら、私は女王様じゃない。そう、思って。でも……こんな、こんな女王様じゃない私が出会っちゃったら……。きっと、嫌われるって。二度と、手紙をくれなくなっちゃうって……そう、考えたらダメになっちゃって」
その声には、少しだけ涙が混じっていた。
あたしは、そんな彼女の顔を見ないように小さく顔を逸らす。
女の涙は、貴重品。そう簡単に見ていいものではないのだ。
「全く……ほら、元気出しなって」
「む、むにゅ!?」
椅子を降りて、彼女の横に立つ。
そして、彼女の柔らかい頬を軽くつねってやった。
本当は机越しに手を伸ばしたかったけど、あたしの背じゃ届かないので妥協である。
「そう、めそめそしない!……ホッズと会えるのは楽しみじゃないのかい?」
「そ、それは……楽しみ、ですけど」
「だったら、さ。それで良いじゃないか」
できる限り歯を見せながらあたしは笑ってみせた。
彼女がおずおずと顔を上げるのが見える。
「何度もいってるけどさ、ホッズは良い奴だよ。あたしが保障する。何せあたしの後輩だからな!」
「も、もう……その理屈、おかしくないですか?」
「良いんだよ。事実あたしの後輩に悪い奴は居ないんだからさ」
「……ふふ、無茶苦茶ですよ?それ」
苦笑する彼女の顔についた涙をナプキンで拭ってやると、大分綺麗になった。
うん、美人だ。
涙を流しているときよりも、笑って居る時の方がずっと。
……あたしと違って出るとこ出てるし。今だって無理して背伸びしているので顔に当たりっぱなしである。
「そのホッズが住所を教えて、会いたいって言ってくれてるんだ。そうやって、笑顔であってやれよ」
「……はい」
「よろしい」
彼女が頷いたのを確認して、あたしは元の席に戻る。
机越しにみる少女は、さっきよりもまっすぐに前を見据えていた。
これならきっと。上手くいくのだろう。
「そう、ですね。会いたいって、言ってくれたんですよね。私に……」
(会いたい、か)
目を瞑って胸に手を当てる彼女の姿に、あたしの心の奥がほんの少しだけちくり、と傷んだ。
(イチロク……)
懐の手紙に触れる。
……もし、あたしが彼女みたいに『会いたい』と書く勇気があれば。
「あの、今日は、ありがとうございました」
「良いって事よ」
無残な姿になったタルトを頬張る彼女にひらひらと手を振り
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