「優衣っ!」
はね飛ばされ、倒れた優衣を恭一は抱きかかえる。
無残、の一言だった。
ゾンビ特有の、死して脆くなった肉体は急な衝撃には耐え切れない。
成長の結果か初めのころのように、ちょっと強く握っただけで崩れるほどではない。しかし、それを越える大きな衝撃が加えられた場合。やはり彼女の身体は壊れやすいものなのだ。
下半身と上半身が両断され、彼女の大切なものが、路面上に零れ落ちていた。吹き出た血が、該当の灯でも分かるほどに赤く、路面を染める。
「ごめん。きょう、いち」
「喋らなくて、いい」
けほっ、という音ともに血混じりの声を出す優衣。彼女の、ぼんやりとした瞳が恭一を見上げていた。
「田村」
「……佐倉」
不意にかけられた声に見上げると、公平が立っていた。
「お前のせいだ」、そんなどこまでも身勝手な言葉がのどの奥から出掛かるのを恭一は堪えた。
「俺を庇ったその人。篠原先輩だよな。一ヶ月前に、死んだ」
「……ああ。だけど、蘇ったんだ。ゾンビになって」
「そう、か」
恭一の言葉に、公平はただ頷くだけだった。
うつむくその表情は、街頭で逆光になっていてよく見えなかった。
「救急車、呼んだほうがいいか?」
「いや、いい。救急車も、警察も」
救急車を呼んだところで、ゾンビを治療できるわけがない、恭一は静かに首を振る。
警察が来れば、それは別の意味で危機を意味することとなる。
「とにかく、今夜の事は見なかった事にしてくれ。警察の対応も、頼む」
「……分かった」
彼女の、血で濡れた身体を背負い、落ちた下半身に添える。それだけで、何とかくっ付いた風になった。服が、血でべとべとになった。
「きょう、いち」
彼女の肩を支えるようにして、歩きさる。
冷たい彼女の身体が、恐ろしかった。
もう死んでしまった彼女が、また失われるのかも知れない。
そう考えただけで、心が悲しみに震えた。
よろよろと歩み去る二人の姿を、公平はただ見ることしかできなかった。
−−
「この、ページだったはず」
アパートに戻った恭一が真っ先に開いたのは、初日に預けられたマニュアルだった。
ゾンビについて書かれている唯一の資料。
静かな部屋の中に、勢いよくページをめくる音が響く。
「……これ、か」
『ゾンビちゃんが怪我をしちゃったら』
発見したポップな字体での説明文を、指で一字一句逃さないように追う。
食事と同じ、短い記述だった。
『ゾンビちゃんは蘇ったばかりだととっても身体が脆いです。
ゾンビちゃんが怪我をしてしまったら、とにかくまずは身体をくっつけてあげること!
そして、たっぷりの精液を与えてあげましょう
精は魔力の源なので、傷ついた部分に注ぐことで、身体の再構築が進みます』
「……精液?」
(何をバカなことを)
倒れている、優衣の姿が目に入る。
くっついたばかりの胴体は、まだ内側の内蔵が見えるほどにずさんな接合だった。
ぽっかりと、肉で出来た空洞そんなところに乱暴をしたら、これ以上崩れるのが目に見えていた。
「きょう、いち」
「優衣?」
ずるり、と優衣は床を這いずり、頭を抱える恭一の隣にまで動く。
そして、自らの腹の傷を指差して見せた。
どろりと隙間から血が流れ出し、床を濡らしていた。
「ここに、いれて」
「大丈夫なのか?本当に」
「うん、多分、大丈夫だと思う」
頷く彼女を見て、恭一はマニュアルを床に置いた。
−−
「んっ、ふっ、あ……」
狭いアパートの中、彼女のうめくような声とぐじゅりぐじゅりという水音が響く。
「また、出るぞ……っ、優衣」
「うん、もっと、ちょうだい……っ」
言われるがままに、恭一は優衣の腹、その肉洞に思いきり肉棒を突き入れ、射精する。
精がかかったところから、ぐちゃ、ぐちゃと緩やかに彼女の身体が戻っていくのが性器越しに伝わり、恭一はただひたすらに精を貢ぐ。
「優衣……優衣……」
彼女の名前を、壊れたスピーカーのように反復しながら、何度も、何度も腰を振る。
人体ではありえないほどの射精の回数。既に幾度出したのか恭一は覚えてすら居なかったし、理由を気にすることもなかった。
ただ、彼女の身体を元に戻したい。それだけが彼の思考の全てだった。
「きょう、いち」
「優衣……」
衝動的なキスは彼女からのものだった。
親鳥に餌を求める雛のように、貪欲に彼の口内に舌を走らせる。さっきのキスとは違う、暴力的な蹂躙。
彼女が求めるがままに舌を絡ませあうと、痺れるほどに強く吸われた。
「……っ」
その刺激だけで、そこが啜られたかの
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