猛毒“虫”意報

『猛毒“虫”意報』

あれは今から5年前の出来事だ。アマチュアのカメラマンとして頑張っていた僕―――シン・ヤクモは今日も故郷の近くにある樹海へ足を踏み入れていた。
樹海と聞くと嫌なイメージしか思い浮かばない人も多いだろう。否、実際に僕の故郷にある樹海も危険な噂話が絶えない。

年に数百人を超す自殺者が出る自殺の名所、自殺者の怨霊や亡霊が夜な夜な彷徨っている魔の樹海、あの世とこの世を繋ぐ黄泉への入口――――などなどリアリティある噂を筆頭に、明らかにその噂に着色を施したかのような噂までもが存在している。
確かに自殺者が出ているのは事実ではあるが、怨霊や亡霊といった存在は現時点では確認されていない。というか確認の仕様がない。ましてや黄泉への入り口なんて嘘っぱちだ。

そんな嘘や暗い噂が絶えない樹海だが、よくよくその樹海を知る人間からすれば然程恐ろしい場所ではない。かく言う僕もこの樹海を知る一人だ。
樹海の中には様々な動植物が存在し、生命の源と呼ぶに相応しい場所が数多く見られる。特に此処は昆虫の宝庫だ。春になれば七色の羽を持った珍しい蝶が飛び回り、夏になれば逞しい図体をしたカブトムシやクワガタが木々の至る所で相撲を取り合っている。

大の昆虫好きである僕にとっては正にこの樹海は天然の宝庫だ。その宝庫に足を踏み入れた僕は活発に活動する昆虫達の姿に頬を緩ませながら、自前のカメラで彼等の姿を撮影して写真に収めていく。

樹海に咲く華に群がるミツバチ、葉から葉へ跳び移るバッタ、己の縄張りを賭けて争うカマキリ―――どれもこれも自由に伸び伸びと動いているが、確かに生を得る為に活発に活動している。

人間社会とはまた違う、昆虫社会の日常に僕は瞬く間に夢中になって撮影に没頭してしまう。そして大好きな昆虫達を撮影する為にカメラを様々な方向に振り向けていると、近くに倒れていた木の下である生き物がジタバタともがいているのを発見した。

「んん? ………うわっ!? む、百足!?」

倒れている木の下でもがいていたのは、今まで見た事もない巨大な百足……恐らく1mはあるのではと本気で思えるぐらいに巨大な百足だった。
状況から察するに恐らく突風か何かの拍子で根元の近くから圧し折れた倒木の下敷きになってしまったのだろう。ジタバタと体全体を激しく動かしてはいるが、中々そこから脱出出来ずにもがき苦しんでいた。

昆虫嫌いの人ならばそれを見ただけで逃げるだろうけど、昆虫が大好きな僕はもがいている百足を見捨てるような真似は出来なかった。
木の下敷きになっている百足の方へと近付き、その百足を苦しめている原因を作った木を持ち上げた。持ち上げたと言っても、スーパーマンのように軽々と完全に持ち上げた訳ではない。倒木の重さは中々のものであり、10代後半に達したばかりの僕の筋力では、精々木の端っこを持って僕の膝辺りまで持ち上げるのが精一杯だ。

だが、下敷きになっていた百足がそこから脱出するには十分過ぎる隙間が空いた。そして僕が隙間を作った間に百足は脱兎の如く木の下から抜け出し、何処かの茂みの中へと消えていった。

助けた後に人助けをしたような心地良い気分を味わったものの、後々になって写真に収めておけば良かったと軽く後悔したのは良き思い出だ。

それから5年後の現在――――成人を迎えた僕は念願のプロカメラマンとなり、故郷から少し離れた雑誌会社の専属カメラマンとして活躍している。
僕の被写体の対象は言うまでもなく大好きな昆虫だ。彼等の姿を撮ってご飯を食べられるなんて、何て嬉しい仕事なのだろう……と言いたいが、それはあくまでも仕事があった時の話だ。仕事が無ければご飯も食べられないので、他の被写体へカメラを向ける事も屡ある。

例えば既にこの世界ではお馴染みの種族として知られている魔物娘だ。彼女達の色気を凝縮させたかのような写真集は全世界で爆発的な売り上げを記録しており、最早魔物娘は存在だけでビジネスが成り立ってしまうほどの存在感と重要性を兼ね備えている。

だが、仮にも彼女達は立派な魔物だ。当然、魔物に相応しい凶暴性や猛毒、怪力や果てには魔法を使う者だって存在する。しかし、彼女達の可愛さや絶世の美女と呼んでも過言ではない容姿を前にすればそんな事は些細なものだと考える男も少なくない。寧ろ、多いと断言しても良いぐらいだ

そして僕が働いている会社にも何人かの魔物娘達が居り、会社発展の為に尽力してくれるのだが……これが困った事に矢鱈と色気や性欲を振り撒くのだ。

受付嬢の仕事をしているスフィンクスのリメラさんは会社に来られた美形のお客さんに問い掛けをして魅了しちゃうし、他の部署で働いているワーウルフのカナリアさんは若手記者と一緒に一ヶ月近く行方不明になった挙句、お腹をぽっこりと膨らまして帰って来
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