佐竹一貴は頑固で真面目な男である。曲がった事を嫌い、真っ直ぐに生きる事を是とする正義感の溢れる男だ。
また自分の意思で始めたら絶対に辞めない事をモットーとしており、幼稚園の頃から習い続けている剣道は彼是十年以上も続けている。おかげで全国大会では最早常連さんと言わんばかりに名を連ねるのは当たり前だ。更に剣道と日々自分に課している鍛錬で鍛えられた肉体は細過ぎず太過ぎず、綺麗に整った肉体に仕上がっていた。
おまけにルックスも太く真っ直ぐな眉と、ハッキリと開いた大きい瞳が特徴的な好青年だ。こんな容姿ならば固物好きや、真面目な男性が好きな女性ならば呆気なく惚れ込んでしまうだろう。つまり強くてイケメン、更に頭脳も優秀で落ち着きもある。ほぼ完璧な男性なのだ。
だが、今年で18になろうとする佐竹一貴は今まで一度も女性と付き合った経験が無い。女性と付き合う暇が無かったのか。答えは否だ。女性と付き合う暇も有れば、寧ろ女性から告白される程に彼はモテまくっており、チャンスも山ほどあった。
しかし、それでも佐竹一貴は付き合おうとはしなかった。いや、付き合えなかった。その理由を知る友人は高校最後の夏休みに入る直前……学校の終業式を終えた後、学校の近場にあるカフェに彼を呼び付けた。
「さて、佐竹くん。俺がどうして君を此処に呼んだのか分かるかね?」
カフェのオープンテラスに置かれたテーブルの一つで向かう会う形で座る二人。勿体ぶった口調で友人が語りかければ、目の前に座る青年……佐竹一貴は整髪剤を使っていないにも拘らずツンツンに尖ったやや短めのヘアースタイルを揺らしながら『ふむっ』と頷き、暫し考え込んだ。
こういう場所に呼んだ、それも二人っきりで……。これらの状況を察した上で、友人は自分に対し何らかの話があるのだろうと可能性が最も高い答えを叩き出した。では、その肝心の話の題材は何か? 思考を巡らした末に佐竹は徐に口を開いた。
「夏休みの課題についてか?」
面白味の欠片も感じられない、彼の実直さと真面目さが浮き彫りとなった回答に友人はバンッと机を叩いた。それだけで今の回答が不正解だと言っている様なものであるが、可能性として最有力候補だった答えが外れだと知るや佐竹の剛直の眉が僅かに歪む。
これは分かっちゃいないな……彼の顔に浮かんだ反応を見てそう察した友人も、これ以上我慢出来ないと言わんばかりの勢いで突っ込んだ。
「違う! お前の弱点をいい加減克服しろって言いたいんだよ!!」
「弱点………あっ、えっ」
弱点と言う言葉に心当たりがあるのか、途端に佐竹の口がきゅっと横一線に固く噤まれる。そして顔を赤面させながら下へ俯き、テーブル下で手をモジモジとさせ始める。
さっきまでのイケメン特有の雰囲気は何処へ行った。そう言いたくなるぐらいにまで佐竹の態度が豹変し、宛ら初心な乙女のようだ。
だが、無理もない話だ。これもそれも、全部は彼が抱える弱点が大いに関係しているのだから。
「お前なぁ……そろそろ女が苦手っていう弱点を克服しないとヤベぇんじゃねぇの?」
イケメンで強くて頭脳も優秀な佐竹一貴の弱点……それは女性が苦手という意外なものであった。
生まれて程無くして母親と死別し、その後は警察官でもあった厳格な父の下、男手一つで育て上げられた。おかげで礼儀正しい好青年に育ったのだが、祖母以外に女性と親密に触れ合う機会が殆ど無かった上に、父親の硬派な育て方も災いし、結果的に女性との接し方が分からない悲劇のイケメンとなってしまった。
友人もそんな彼の生活環境を把握しているが、流石にそろそろ克服しなければ駄目だろうと思っていた。というのも、彼自身の事情も深く絡んでいるからだ。
「イケメンのお前が自分から苦手な女を避けるから、その皺寄せがこっちに来るんだよ」
「皺寄せ?」
「ああ、お前と友達だからって理由だけで女子達が俺の所に殺到してさ。『佐竹くんはどんな女性が好きなの?』『佐竹くんは何時が暇なの?』って質問攻め。そこで俺に興味を持ってくれれば良かったんだけど、結局どの女子も質問し終わったら即サヨウナラだ。性質が悪いにも程があるぜ!」
「むっ、それは……スマン」
「スマンじゃねぇよ! お前が弱点を克服してくれたら、こっちだって困らないんだっつーの!」
「だ、だが……そう言われてもだな……」
女性に対する苦手意識を持つせいで友人に迷惑を掛けてしまっている事は、確かに反省しなければならないだろう。だが、そもそも女性を苦手とする自分に対し、急に女性と向き合えるようになれと言われても無理な話だ。
女性を意識するのはおろか、女性の姿を想像するだけで赤面してしまう。女性と会話したりしただけで呼吸を忘れそうになる。佐竹が面と向き合える女性は自分
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