亡君の誕生

ナハトの街に夜明けが訪れた頃、戦いは終わった。こちらが出した損害は殆ど無に等しく、事実上の大勝利だった。捕まった兵士達は言うまでもなく彼女達の餌食となり、夜明けを迎えたと言うのに卑猥な呻き声がナハトの至る所から聞こえて来る。

しかし、夜明けを迎えてもガルフは目覚めなかった。遂に私は彼の名前を叫ぶのを止めて……彼の胸の上に突っ伏して泣いた。

泣いて、泣いて、人目を憚らずに泣き続けた。

どれだけ泣き続けたのかも分からず、気付いたら涙は最早枯れ果てており、口の中が乾燥していた。口だけじゃない、肌の潤いさえも失われていた。

もうこのまま……私は壊れてしまうのだろうか。最愛の男性を失い、悲しみに打ちひしがれながら生きていくのだろうか。死んで蘇った末に、こんな残酷な仕打ちはあんまりだと、アンデッド族のリッチとして生まれた己を呪った。

「何がリッチよ……。何が最強の魔法使いよ……。愛する人を守れないなんて……無意味じゃない……」

リッチ……アンデッド族の中でも最強の魔法使い……大層な肩書とは裏腹に役に立たないではないかと自分自身が嫌いになりそうになる。

自己嫌悪しつつある肩書や単語が何度も脳裏を駆け回る最中――――私の脳裏に突如閃きが舞い込んできた。

「ちょっと待って、確か魔導書に……!」

どうしてすぐに思い付かなかったのだろう。リッチの最大の武器であり、膨大な魔法が記されている魔導書にソレがあった筈だと言う事に。私の記憶が正しければ、魔導書の最後辺りに私が望んでいたソレが書かれていた筈だ。
膨大な魔法に関する知識と、微かに見覚えのある記憶を頼りに魔導書を一枚ずつ捲っていき、やがてお目当てのページに辿り着いた瞬間……私は目を見張った。

「これだ……! これを実行すれば……ガルフは助かる!」

私の叫びに同じようにガルフに抱き付いて泣いていたアンコが驚いて『本当ですか!?』と叫んだが、彼女の問い掛けに答えられる程に今の私は冷静じゃなかった。代わりに、彼女にお願いと称した命令を伝えた。

「アンコ、お願い。急いで私の研究室にセックスした魔物娘達を連れて来て!」
「え、あ、はい!」

私の言葉は理解出来てはいるが、一体何をするかまでは理解できていないようだ。子供の頭ではそれを理解するのは困難に等しいが、それでもガルフを助けるために必要な処置であろう事は重々理解したらしく、急いで他の魔物娘達の居る方へと飛んで行った。

そして私は魔力を使って彼の体をフワリと浮かすと、そのまま城の方へと運んで行く。既に顔色は肌色ではなく真っ白に近いぐらいに色褪せてしまっているが、それでも私は諦めなかった。否、諦めるつもりなんてない。

「ガルフ、待っててね。絶対に貴方を生き返らせてみせるから……」

………………
……………
…………
………
……


夢を見た。とてもとても懐かしい夢を見た。

幼い日に故郷を失い泣き崩れた子供だった頃の自分……
まだ新米傭兵として駆け出しだった若い頃の自分……
戦場を幾つも回って傭兵らしい立ち振る舞いが板に付いた頃の自分……
キャサリンと初めて出会って何時の間にか恋に落ちた自分……
そしてキャサリンとの別れで悲しみに暮れる自分……

今までの思い出が、人生が、全てが凝縮され、映画のように映像となって俺の目の前を流れていく。ああ、これが走馬灯ってヤツか。

そういえば俺の最期はどうなったんだっけ?………ああ、思い出した。教団の馬鹿騎士に刺されたんだ。思い出すと胸糞悪いし、我ながら呆気ない最期だと思える。呆気なさ過ぎて笑えやしない。

しかし、生き延びていたら、それはそれで面倒に巻き込まれるのは火を見るよりも明らかだ。特に魔物のキャサリンに何をされるか分かったものではない。

まぁ、こういう幕切れが……案外良いかもしれないな。それに俺は傭兵だ。戦う以外に能の無い男が死んだって、悲しむ奴は居ないだろう。寧ろ、俺の死を知った同業者が喜ぶだろうよ。稼ぎが増えるってな。

そうしている間に走馬灯の映像は終わり、暗い空間だけが取り残される。成る程、これが死後の世界か。
真っ暗で、足元はフワフワして落ち着かない。どっちが上下でどっちが左右なのか分からない。だけど自分の体等はハッキリと見えるし、恐怖心も感じない。何と言うか……人間の五感が全く通用しない世界だ。

そんな冷静な分析はさて置き、これからどうすれば良いかと悩んでいると、目の前に光に包まれた女性が何処からともなく現れた。
真っ白い光ではあるが、目が眩む程の強い光ではなく、直視出来る柔らかで温かな光だ。また逆光しているせいで姿は見えないが、背丈や体のラインなどで相手が女性である事は間違いない。

彼女が何処の誰なのかは分からないが、俺の中にある直感は彼女に違いないと叫ん
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