「魔物に死を! 人類に栄光と誇りを!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
「“魔神よ、我等朽ち果てた屍人に力と加護を!”」
「「「オオオオオオオ!!!」」」
教団と魔物、生きた人間と死んだ人間、聖なる力と魔の力、悪と正義……いや、最後の三つ目はどちらが正義でどちらが悪なのかは決めかねるが、兎に角、余程の事がない限り絶対に相入れぬ者同士がナハトにて激突しているのは事実だ。
教団側は分厚い甲冑を身に纏った騎士達が先頭に立って戦端を切り開き、その後ろから銃剣が備わったマスケット銃や数人掛かりで運用する大砲等の火器を有する歩兵達が先を行く騎士達を支援している。更にブーケを羽織った魔法使いが物理攻撃から身を守る防護魔法を唱え、先頭で戦う騎士と歩兵を守っている。
対する魔物側はキャサリンが唱えた呪文でアンデッド達の肉体を強化し、後はアンデッド族らしく銃や剣を前にしても死を恐れぬ特攻を敢行していく。極めてシンプルな手段ではあるが、アンデッド族の特性を考えれば、これ以上にない効果的な戦い方だとも言える。
数は若干教団側が少ないが、先陣を切って戦う騎士達はこれを力量でカバーしている。戦場という雰囲気に押し潰されたり浮足立ったりしていない所から見る限り、十分な訓練を受け、尚且つ戦場馴れしているようだ。また後方から支援している歩兵や魔法使いとの連携も上手く決まっており、騎士達の力は存分に発揮されている。
魔物達は連携だの協力だの効果的な戦い方を心得ていない上、頭脳の弱いアンデッド族だと数でゴリ押しという極めて素人的な戦法に頼らざるを得ない。実質上のナハトのアンデッド族の長であるキャサリンも仲間に戦いの指揮をしていない所を見るに、彼女の持つ高い頭脳はあくまでも魔術や魔法の研究の為であり、戦術や戦略の為ではないようだ。
戦術と戦略で有利に立ち回ろうとする教団と、数で勝り不死というアドバンテージを有するアンデッド。互いに異なる長所と短所を有する二つがぶつかり合い、戦いは互角の呈そうを見せる。
…………あれ、俺真剣に両者の戦いを見て、挙句には戦いの様子を観察しちゃってるけど――――ぶっちゃけ、これって逃げるチャンスじゃね?
キャサリンも突然襲って来た教団に気を取られているし、教団も目の敵にしている魔物娘しか見ていない。
うん、逃げるチャンス到来です。それも最大級のチャンスです。
何だよ、俺はこれから一体どうなるんだなんて深刻に悩む必要なんて何処にも無いんじゃねぇか! そうだと分かれば、あの壊れた門へ向かって一直線だ。幸いな事にキャサリンが仕込んだワープ魔法は教団の砲撃で吹っ飛んでしまったので、逃げるなら今しかない。
アンデッド達に気付かれぬよう、こっそりと教団が破壊した門に向かって進み始める。時々、周囲の様子を見るが、やはりどちらも戦いに夢中で俺の存在に気付いていないようだ。最も、魔物娘の方は戦いよりも、若い男達が大勢来た事に夢中になっているという表現が正しいが。
よし、さっさとこんな物騒な地からオサラバしちまおう。そして俺は漸く地獄から解放される――――と思った矢先、足元に銃弾が飛んで来た。
流れ弾かと思って視線を周りに巡らすと、一人の若い歩兵が眉間に皺を寄せながら手にしたマスケット銃の銃口をこちらに向けているではないか。どうやら流れ弾ではなく、意図的に発射したものらしい。また相手と俺の距離は5m程しか離れていない。恐らく威嚇目的で足元に銃弾を撃ち込んだのだろう。
それに何だか、相手の目が妙に血走って、ギラついている。ハッキリと言ってしまえば、敵意を剥き出しにしてこちらを睨んでいる。
「貴様! こんな所でコソコソと何をしている!」
「あ?」
「答えろ! こんな所で何をしている!」
うん、まぁ、コソコソしていたのは事実だ。戦いに巻き込まれるなんて絶対に嫌だし、それに今さっきまで魔物に追われた身だし。コソコソしてしまうのは仕方がないというものだ。
付け加えて、こんな魔物が蠢くゴーストタウンに居た事自体が“怪しい”という認識に拍車を掛けてしまっていた。そりゃ、そうだ。こんな場所でコソコソしている人間は怪しく見えちまうよな。
仕方がない。下手に逃げるよりかは、きちんと説明して――――
「貴様、さては魔物の仲間だな!? この裏切り者め!」
「はっ!? いやいや、人の話を聞けよ! 俺は……!」
「おい、こいつも敵だ! 撃て! 撃ち殺せ!」
―――説明するのはおろか、人の話も聞かずに向こうは俺を敵と判断。次の言葉を発する暇もなく、教団の歩兵達が俺に銃口を向けてきたので咄嗟に回れ右をして城下町へ逃げた。
畜生! 連中は疑わしい人間さえも討伐の対象にするのかよ! 魔物を滅する為には手段を選ばないとさえ言われた教団の悪評は昔から有名だった
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