魔物アプリ……スライム編

 スマートフォンの普及と共に増大した物と言えば、やはりアプリと呼ばれる一種の携帯ゲームであろう。気軽に手に入り、気軽に遊べ、気軽に作れる。忙しいサラリーマンから遊び盛りの学生、果てには年配の方々に至るまで、幅広い年齢層の心を掴んだと言っても過言ではない。
 しかし、通常のゲームとは異なり、一般人でも作成出来るという利点は、相手のデータを盗み取る為の違法なアプリを作れる事も可能にしてしまった。また最初は無料を謳い、後々高額の課金を請求するという後出しとも呼べるケースも発生している。

それによって人々はアプリを選ぶ際にも、違法か否か、課金制度はどうなのか、広告通りの品物なのか……等々、様々な部分に気を付けながら購入するようになった。

日を追うごとに増え続け、進化していくアプリ。そんな最中、あるアプリが若者達を中心に密かに人気を高めていた。
面白いか否かと言われれば、そのアプリをする人にもよるが、何よりもそのアプリには人間誰しもが持つ好奇心を刺激する様な『都市伝説』が噂されていた。



よくある学校からの帰り道の途中、同級生や先輩後輩と言った幅広い友人同士で繰り広げられる他愛の無い会話の中で、突然その話題が現れた。

「魔物アプリ?」
「ああ、凄いんだぜ! 俺のダチがこれに嵌まってよ、俺も試しにダウンロードしてやってみたんだけど……色々と凄いんだって!!」
「よく分からないんだけど、何が凄いの?」

 スマートフォンを片手に自慢気に語る友人を目前にし、ヒビキ・レイは少し困ったような表情を浮かべて首を傾げた。目の前の友人は魔物アプリなる物を凄い凄いと褒め称えるものの、一体何が凄いのかを全く教えてくれない。肝心な所が聞き出せなければ意味が無いという意味を込め、改めてその魔物アプリとやらの何が凄いのかと訪ねた。

「この魔物アプリは様々な種類が存在するんだ。ほら」

 そう言ってスマートフォンの画面をヒビキに見せると、そこには魔物アプリという題名で多種多様のゲームが画面一杯にズラリと並んでいた。パズルやテトリス、格ゲーやクイズや育成ゲーム等々、確かに種類は豊富そうだ。しかし、この程度のアプリゲームならば他のアプリでも同様のものがあり、何ら珍しい事でもない。

「で、これの何が凄いの? 中身はよく見掛けるアプリゲームっぽいけど?」
「ふっふ〜ん♪ 実はな、このアプリゲームは巷で都市伝説にもなっているぐらいに有名なゲームなんだぜ」
「都市伝説?」

 ヒビキ自身は都市伝説だの噂だのという胡散臭い話には興味のきょの字も抱かない人間だ。学校内で当たり前のように広まっているその手の類にさえ関心を寄せないのだが、今回ばかりは自分と仲良くしてくれる友人が鼻息を荒げて熱弁するものなので、少なからずの興味を抱いていた。

 そして友人は意気揚々と、その都市伝説とやらをヒビキに耳打ちで教えてくれた。

「ああ、このゲームを徹底的に遣り込むと……彼女が出来るんだよ」
「……ウソだ〜」

 友人が前振りで勿体ぶっていたのが悪かったのか、それとも過度に期待していた自分が悪かったのか。何とも微妙な都市伝説にヒビキも今度こそ呆れ顔を浮かべ、冷めた目で友人を見詰めた。

「いや、マジで! 本当だって!! つか、俺もコレで彼女ゲットしたんだから!!!」
「フーン、ソウナンダー」
「あっ、その口の利き方、さては信用していないな!?」
「信用云々以前に、ゲームを遣り込んだだけで彼女が出来るなんて……何と言うか、しょぼい都市伝説だなーって思っただけだよ」
「何だとー!?」

ゲームを遣り込んだだけで彼女が出来るのだとしたら、今頃世の中はリア充ばかりになっているに違いない。そうヒビキが頭の中でぼやいている一方で、目の前の友人は身体を震わせながら魔物アプリの素晴らしさを語るのを止めようとはしなかった。

「兎に角、このゲームに出てくるキャラは皆可愛い子ばっかりだし、実際に出来る彼女も可愛いんだぞ!! お前も騙されたと思って、一回このゲームをやってみろ!!」
「やだよ、ゲームを買う余裕だって無いし、課金とか面倒だしさ」

 ヒビキもスマートフォンのアプリゲームは幾つか持っているが、殆どが無料であったり、課金を必要としないアプリばかりだ。もしくは課金を必要とするアプリでも、敢えて課金に手を出さず、無課金でとことん楽しむタイプだ。良く言えば財布に優しい、悪く言えば守銭奴だ。

 しかし、そんなヒビキの発言を予測していたかのように、友人はニヤリと口の端を吊り上げて意味深な笑みを浮かべる。

「実はこの魔物アプリ……無料・無課金・一生楽しめるの三拍子が揃っているんだぜ」
「何……だと!?」

 噂や都市伝説には一切興味を持たなかったヒビキだが、無料といった現実味のある言葉を耳にした途端
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