触手、育てませんか?

 学校には数多の委員がある。図書委員・給食委員・保健委員・体育委員・美化委員……等々、これらを纏めて学級委員と呼ぶ。
 委員会の委員を決定する方法は学級ごとで異なるが、何処も殆どが同じだ。自ら率先してやりたい委員会に入る者、諦めと観念で挙手して委員会に入る者、やりたくない委員会を無理矢理押し付けられて委員会に入らざるを得ない者。委員が決定するのは前者が極僅かで、残り二つが大半を占めると言っても過言ではない。

 そして今、とある学校にて一人の冴えない男子生徒がある委員会の委員として選抜された。

「……という訳で、飼育委員は平方君に決定しました」
「はぁ……」

 動植物の飼育を目的とした飼育委員に選ばれた平方孝平は無気力な溜息を吐き出し、肩を落とした。
 物心付いた頃から押しの弱い性格であり、今まで他人の意見に流される人生を歩んできた彼。今回も周囲の意見に流され、嫌々ながらも飼育委員を担当する羽目になってしまったのだ。

 自分のこういった性格は直したいなぁ……と思ったのは幾度とあったが、いざ重要な場面になると周囲の意見に頼ってしまう自分が居り、結局今日まで直せず仕舞いであった。

「じゃあ、本日からの水槽のメダカの餌遣りと観賞植物の御世話を宜しくお願いね。あと教室の電気と戸締りの確認もしといてね」
「はぁーい」

 そして委員会の決定と同時に飼育委員のやるべき仕事をジョロウグモであり、平方の担任でもある渚に頼まれて、本日の学校は終了した。

 孝平の居る国は親魔物派国家であり、共存は勿論のこと、魔物娘と人間が共に学問を学ぶ学校も数多く存在する。孝平の居る学校もその一つであり、ジョロウグモの渚のように学校の教員をしている魔物娘も居れば、孝平と同じく学業に励む魔物娘の同級生も数多く居る。
 時々、魔物娘特有の性欲を爆発させる子も居るが、それさえ除けば基本的に良い子ばかりだ。最も魔物娘にとって性欲は宿命とも言えるので、正直な所どうしようもないと言うのが本音であるが。

 それはさて置き、飼育委員として任命された孝平は放課後の教室に一人で残り、メダカに餌を遣ったり、各クラスに置かれてある観賞用植物に水を遣ったりと飼育員らしい仕事を黙々とこなしていた。
 メダカに餌を遣りながら、ふと視線を外へ向けてみると、校門を出て帰路に付く生徒の姿、そして学校の広いグラウンドでは運動関係の部活動に励む人間生徒と魔物娘の姿があった。
 それだけなら良い。しかし、よくよく眼を凝らして見ると、グラウンドの端に植えられた大きな木々の下に屯する男子生徒と魔物娘の姿があれば、仲睦まじく手を繋いで学校を後にする男子生徒と魔物娘の姿も見受けられた。

 何処からどう見ても見事なまでのカップルである。通常の人間だけの学校だと男女の恋愛は不純行為だと言って規制する所も存在するが、魔物娘も通う学校では恋愛の禁止は魔物娘の権利を著しく損なうものであると判断され、結果的に男女間の恋愛は大々的にOKとなっている。
 おかげでこの学校では男子生徒と魔物娘とのカップルが数多く成立し、最早珍しいものではなくなっていた。寧ろ、その逆にカップルが出来ていない方が珍しいとも言えた。

 因みに孝平自身はその珍しい後者に属する人間であり、彼女や恋人を欲しながらも、未だに手に入れられずに居た。彼自身の容姿は二枚目でもなければ三枚目でもない普通の容姿、成績もそこそこ。何から何まで普通を地で行く、一言で言えば冴えない地味な男子である。

「あーあー。俺にもあんな可愛い子が欲しいなぁ〜」
「なら、君にとっておきの女の子を紹介してあげようか?」

 そんな風にカップル達を羨ましいそうな羨望の眼差しで見詰めていると、突然背後から声を掛けられた。根本的な声色は女性のソレであるが、心地良いバリトンボイスが利いており、まるで歌劇団で男性を演じている女優の声を間近で聞いているようだ。
 そして何気なく後ろへ振り返ると、薄緑色のシルクハットに燕尾服……に似せたキノコを身に纏った、宛ら英国紳士のような出で立ちをしたマッドハッターが勝手に同級生の席に座り、紅茶を楽しんでいた。パッと見は美人であるが、孝平は彼女の姿を視界に入れた途端にゲッと言わんばかりに顔を顰めた。

「エリー……先生!? 何で此処に居るんだよ!?」
「迷える子羊に手を差し伸べるのも教師としての役目だよ。もし何だったら君の溜まっている欲求をボクが解消してあげても良いんだよ?」
「全力で遠慮します」

 マッドハッターのエリーは孝平達の学校では英語を担当する教職員であり、丁寧で分かり易い上に優しく教えてくれるとの事で教育者としての評判は良い。
 しかし、彼女は気に入った男子生徒を見掛けるとマッドハッター特有のキノコ胞子を駆使して生徒を誘惑し、性的に頂
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