第四章 怠惰の勇者:前編

 あ、さて! あ、さて! さては南京玉すだれ! ……っつっても、さすがにこの国の連中にゃ分かり辛いか。見た感じ反応薄いし。この街はジパング系の魔物娘も多いからイケると思ったんだがなぁ。

 まあいいや! さてさて、この街で本当にあった話もようやく折り返し! 教国から放たれた帰らずの鉄砲玉も残すところ、後四人!! 果たして王国は、そこに住む魔物娘は、勇者と教国の魔の手より逃れることが出来るのか!?

 ま、俺らがこうして暮らしてるのが既にネタバレみてえなもんだけどな。けど、ンなこたぁ関係ねえ! ここにこうしてお集まりになったってこたぁ、皆さんお話の続きが気になるんだろう? だからここへ来た。違うかい?

 ならば聞かせましょう! さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!! 

 七人の勇者も遂に四人目! 詐欺師、狂信者、人たらしと続いて、お出ましになるこいつは一体何者だ!? ヤバいのか? メンドいのか? 厄介なのかぁ? それとも全部か!? 七人の中で最大の謎に包まれた勇者がついにそのベールを脱ぐ時が来たぞ!

 タイトル!! 『怠惰の勇者 〜あるいは人見知り鍛冶屋のお話〜』!!

 はじまり、はじまりぃ〜!





 その男は、穴蔵に住んでいた。どこかの地面をくり貫いて作った地下室、そこが己の終の棲家と言わんばかりに男は生活に必要な全てをこの暗闇に置いていた。穴蔵で目覚め、穴蔵で食い、穴蔵に眠る。もうそんな生活をずっと続けていた。

 だが穴の中は生活の品よりも、男の仕事道具で埋め尽くされていた。記録用の羊皮紙、実験機材のフラスコ、何やら得体の知れないサンプルを封じたガラス瓶、闇の中で妖しく光る謎の植物、火にかけてないのに泡立つ液体、用途どころか名称さえ不明の器具が散乱し、男の生活圏は部屋の隅に僅かに設けられているだけだった。

 「起きて半畳、寝て一畳」という東方の言葉の通り、男は来る日も来る日も自分の仕事を第一優先し、生活は必要最低限ギリギリに留めていた。大陽の光も殆ど浴びず、これで何の病にも罹らないのだから世の中不思議なものだ。

 だが更に不思議なのは、こうした地上の俗世とは縁を切った世捨て人な暮らしをしているにも関わらず、男の元へ会いに来る者が一定数いるということだ。

 「ごめんください」

 地上から続く階段を降りた来訪者が、羊皮紙に難解な数式を書き込む男へと近づく。

 客人はゴーレム、名をエステル。かつてこの男に命を吹き込まれ、今は七人の勇者の一角であるクリスと共に活動を続けている。古巣であるここへ帰ってくるのも久方振りだが、彼女の生みの親は相変わらず外で起こっていることに興味はないようだった。

 「お元気そうですね」

 「うむ」

 「今日はお願いしたいことがあります」

 「うむ」

 久しぶりに会った相手にも切って貼ったような返事しかしないが、男は元からこういう性格なので仕方がない。これでも話はちゃんと聞いていたりする。

 「わたしのルーンからマスター設定を外すことはできますか?」

 「不可能である。何故そんなことを聞く」

 「いえ……一身上の都合で」

 「そうであるか。貴様も知っての通り、ゴーレムとは仕えるべき主に従うようになっている。マスターが誰かを刻まなければ、貴様らは動く事すら出来ないのである。よってマスター設定を外せば貴様は停止する」

 「そうですか」

 「そもそも、マスター変更ではなく解除とは……。一体何の心境の変化であるか?」

 「いえ……」

 「ふむ」

 言いよどんだエステルの気配を察し、男もそれ以上の追及をやめた。というより、全てを察してのだろう。

 彼女がこうなるようお膳立てしたのは、他ならぬ男自身なのだから。

 「マスター設定を解除することはできない。だが、それをエステル、貴様自身に変更することは可能なのである。貴様自身がマスターとなり、己に命令を下すのである」

 「そんなことが……」

 「可能である。主を失った野良ゴーレムを十数体捕獲し、解体し、実験し、研究した。少し変則的な術式にはなるが、まあ何の問題も無い。元からこうなる事も想定して貴様の体は作られている」

 エステルの左腕を取り、そのルーンに指先が触れる。

 「案ずるな。いずれ魔道を極めるこの我輩、『イルム』に手違いなど起こらんよ」





 七人の勇者唯一の魔術師、イルムという男は謎に包まれている。彼は勇者になった時期こそ他の六人と同じだが、実際はそれ以前より教会に出入りし、教国公認の魔術師として今回の作戦立案にも深く関わっていた。

 被造物のエステルと同じぐらい大陽に焼けた浅黒い肌と、墨に浸けたような黒い髪……身体的特徴が示すのは、教国周辺の民族ではないということだけ。異民族、それが
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