はいはい、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!! 我らが王国に遣わされし七人の勇者のお話、その第三弾がはじまるよ〜!!
一人目は詐欺師、二人目は狂信者、教国のレパートリーは尽きないねえ、一体どんな方法で選んだのか聞いてみたいとこだ。誰か暇があったら俺に代わって聞いといてくれよ。
はてさて今回はどんな変わった勇者様がお出ましになるのやら? そしてどんな魔物娘と出会うのか? 勇者と魔物娘の間にあるのは愛か、憎しみか、悲劇か、はたまた喜劇なのか!? それはお話を聞いている皆さんだけが知る事ができる!
聞きたい? 聞きたい聞きたい、興味あるんだね! そうと決まりゃ聞かせましょう!
時に皆さん、モテたいかい? 女は三国一のイケメンに嫁ぎ、男は幾人もの美女を侍らせて一杯やるってのが、いつの時代も変わらぬ夢よ! この街は出会いの街だから、ひょっとすれば何人かは夢を叶えてっかもな。
だけど……モテすぎるってのも考えもんだぜ? 惚れた腫れたは男女の仲だが、お前さんはそいつのどこに惚れてんだい? 顔? 体つき? 性格? 家柄? 何だっていい、ぱっと答えられるかな?
お話は、『色欲の勇者 〜あるいは無愛想なメイドの話〜』。
お前さんは、本当にそいつのことが「好き」なのかな?
アルカーヌム連合王国はその名の通り王制国家であるが、肥大化した領土や多様化した領民らの政治に対する期待に応えるべく、王を支える大臣を選挙によって選出する仕組みがある。
出馬できる者は政治教育を受けた貴族や良家の子女という制限はあるが、国民は自分達を治める国の代表者を自分達で選出できるという、後の世に民主主義と呼ばれる先駆けをこの国は実践していた。
秘匿されるのが常識である王族の聖域にも一部だが民間に開放され、それまで王族と言う存在にあった堅苦しいイメージを払拭し、アルカーヌムは「開かれた王国」としての地位を内外に喧伝し、平和的でオープンな印象を与えることに成功していた。
そして当然、門戸の開かれた文化的な国と繋がりを持ちたい他国が国交を結び、王都を始めとする主だった都市にはいくつもの大使館が建ち並ぶことになった。異文化交流の架け橋と同時に、外交の中間点でもあるそれらが増え、王国は一気に多方面への幅広い活動を要求された。
派遣される大使は国の顔役であり代表者。国家としての思惑がどうであれ、大使たる者は誠実で質実剛健を旨として行動することが求められる。その所作振る舞いの全てに一流貴族と同等の気品を求められるのだ。
「今宵も有意義な会談であった。まったく、そなたと話していると時が過ぎるのが早い」
王都の中央、王宮が座すその周辺は政治経済の中心。様々な政治家や貴族、知識人などが昼夜を問わず省庁を行き来し、様々な思惑が行き交う「るつぼ」。
そのとある場所、王侯貴族とそれに連なる者らのみが住まう事を許された区域に建つ一軒の豪邸。巨大な噴水庭園を有するその邸宅は、正門から玄関までの間だけで市民の家が何軒も建つような規模だった。
この邸宅に住まう者こそ、この国の外交を一手に担う外務大臣、レドル伯爵である。歳は既に老齢と呼ばれて差し支えないが、魑魅魍魎が棲む政界を長く取り仕切ってきただけにその眼力は老いてなお鋭い。こうして談笑していれば人の好い老人だが、刻み込まれたシワと同じ数の修羅場を乗り切ったことは想像に難くない。
「僕も同じ思いです、閣下。閣下が尽力して下さったからこそ、我が国と王国の現在があります。若輩の身として、いつも閣下からは学ばせてもらうことばかりです」
「フハハ、謙遜はよさぬか。そなたはワシより五十も若い、まだまだこれからよ。それに未熟といえば言い方は悪いが、未熟は言い換えれば『青い』ともいう。これから先、そなたの付けるであろう実がどこまで熟すのか、ワシはそれが楽しみだ」
「老いてなお精強、恐れ入ります。今宵はこのような宴の場に僕をお誘いいただき、本当にありがとうございました」
「これ! 宴ではなく会談と言っとろう。一国の政治家であるワシが、これまた一国の代表者であるそなたをプライベートとはいえ宴に招待したとあれば、どんな下衆の勘繰りがあるか分かったものではない。そなたも政治に身を置く者なら、言葉は使い分けた方が何かと得だぞ?」
「しかと肝に。それでは、僕はこれで失礼をば」
「うむ。ワシはこれから執務がある故、書斎に戻ろう。見送りは……ふむ、そこのおぬし、責任を持って大使殿を正門まで送り届けよ」
「かしこまりました」
付き従っていたメイドの一人が前に進み出て、客人を門まで送り届ける役を仰せつけられた。
広い敷地に設けられた歩道を歩きながら、青年──とある国の大使──は、月を見
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