『第三次活動記録』
『観察対象、検体0057(以下“甲”)に対する一連の調査と実験の経過、及びそれに伴う成果についての記述』
『対象への生体強度測定は予測を大きく上回る数値を記録』
『驚くべきは甲の持つ免疫機能の強靭さ。投与された全ての薬物に対し瞬時に適応し、耐性を獲得するという、一介の生物が持つ機能を凌駕した能力を有していることが判明した』
『メカニズムについては未解明の部分が多く、今後更なる調査が必要になると思われる。完全に解明された暁には、他国と比して遅れているとされる我が国の医療分野は目覚ましい発展を遂げることは疑いようも無い』
『第九次活動記録』
『甲の精神が不安定になりかけているとの報告を受ける。長時間の拘束、度重なる調査や実験などがその影響と推測』
『向精神効果を有する薬物の投与が検討されたが、例の免疫機能により効果は皆無と判断』
『幸いにも肉体のコンディションは損なわれてはいないので、心理療法に留めることを選択』
『委員会には可及的速やかに、それらが可能な人物、もしくは団体・組織などへの協力を求めます』
『第十八次活動記録』
『我々の調査に対する甲の協力姿勢は日に日に良好な傾向となっている。以前と比較して心身共に余裕が見られる』
『やはり■■■■■■氏の影響は大きいようだ。引き続き氏には甲の心理面でのケアを一任したい』
『このまま安定した状態が続くようであれば、調査は次の段階へと進められるだろう』
『委員会には例の件について正式に検討いただきたい』
『第二十七次活動記録』
『例の件について委員会との審議が難航。最も重要な課題の解決に議論百出、着地点が見えず』
『最終的にそれを実行に移すという点では一致している。問題は、それをどうやって実行するか、その方法だ』
『強行すべしという意見もあったが、論外だ。甲は貴重な唯一の検体。これを失うことは絶対に回避しなければならない』
『甲の謎を解き明かすことは急務である。だが焦りは禁物だ。必ず万全の対策を講じてから臨まねばならない』
『第三十六次活動記録』
『実験はついに解剖へと踏み出した。甲の有する生体機能の解明には必要不可欠なプロセスであり、かねてより委員会に具申していた案件が実現した事に、内心興奮を抑えきれない』
『意見それ自体は前々からあった。我々の要望を拒む最大の要因は、皮肉にも甲が有する免疫機能にあったのだ』
『あらゆる薬物薬効に対する耐性を獲得する甲に対し、麻酔となる痛覚抑止剤も効果は薄いだろうと推測。事前に行った検査でも予測通りとなった』
『痛覚を残したまま解剖するという案は早々に却下された。彼には人類の存続と発展、その礎となる為に、更なる生存をもってそれらへの貢献としたい』
『そう、彼は宝だ』
『人類という種は進化の袋小路に立ち、頭打ちを迎えて久しい。万物の霊長を僭称できたのも今は昔、このままでは遠からず異種との生存競争に呑まれて種族ごと消え去るだろう』
『だが彼が、彼さえいてくれれば、人類は新たなステージに進むことが出来る。種としてより上位に立ち、異種との交雑をも乗り越え、我々人類こそが霊長に返り咲き世界の基盤となる事も夢ではない』
『その為にこそ、まずは行動あるのみだ』
『経過を観測し、過程を検証し、結果を記録しよう』
『然る後にこそ────』
『“実り豊かなる黄金の安寧は訪れん”』
『と、最後のは■■■■■■氏の受け売りだったか。彼にも世話になった。当初はその素性を怪しみもしたが、今にして思えばそれは無用の心配で、彼には失礼な振る舞いをしてしまった』
『この調査活動が万事上手くいった暁には、是非彼には優秀なアドバイザーとして計画運営に携わってもらいたい』
『今後、我々の活動はより多くの人民に肉体的、あるいは精神的苦痛を強いるものが増えるだろう。発展に多少の犠牲は已む無しとの見方もあるが、一個人としての発言を許されるなら、それらの艱難辛苦は須らく結果として人民全ての益とならなければいけない』
『その時に必要になるのはきっと、彼のような精神的支柱をなす役割を持つ者なのだろう』
『結論から述べましょう』
『計画は失敗しました』
『失敗した』
『失敗してしまった』
『死者十四名。重症者三十名。軽症者百余名。重篤汚染区域は研究所全域に及び、研究棟はその全てを放棄。蓄積されていた数多の研究データも大半が失われてしまいました』
『もはやこれは事故ではありません。多くの人命と貴重な資源を喪失させた、完全なる“災害”なのです』
『直前
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