第2話 抵抗勢力【レジスタンス】

 【リブラ】脱落の報は少なからず残りの四人を動揺させた。戦場での敗北ではなくレジスタンスの突発的な襲撃、言わば事故による落命は、戦わずして負けるという彼ら超人にとってはあまりにも不名誉な最期だった。

 「前々から胡散臭ぇ野郎とは思っちゃいたが、ここまで腑抜けた奴だったとはな。面汚しとはこういうこったな」

 口を突いて出る悪態とは裏腹に、その動揺は【タウロス】もまた同じだった。

 超人とは文字通り、「人」を「超」えた存在だ。身体能力を向上させた第一世代、五感の拡大と知能の上昇を可能とした第二世代、それらを凌駕する第三世代である自分たちは無敵の存在なのだと信じて疑わず、またそう確信するだけの性能にも裏打ちされていた。

 ところが蓋を開ければ、栄えある超人兵士の一人は呆気なく、そしてあっさりと退場した。あまりの呆気なさに【タウロス】の中にあった超人としての自負がひび割れ、音を立てて崩れるような錯覚を感じさせた。他の人間と、ただの人間と同じように自分たちも何の変哲も無いまま命を落としてしまうのではと……。

 「【タウロス】、平気?」

 「【ヴァルゴ】……」

 ふと視界に手が入り込む。声を掛けた本人はいつもと変わらぬ澄ました顔で、その手には見慣れた飴玉を持っていた。

 「お前から話しかけてくるなんざ珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」

 「別に。なんか落ち込んでたから」

 「落ち込む? 誰が? 俺がか? 冗談だろ」

 「そう。違うなら、それでいいの」

 「…………いや、お前にはかなわねえな」

 観念したように呟き飴玉を口に放り込む、その姿には普段の覇気は無く、【ヴァルゴ】の言った言葉が真実であると如実に語っていた。対する【ヴァルゴ】はそれ以上追及はせず、同じように飴を頬張りながらしばし沈黙を守った。

 「お前とは長い付き合いだな。確か、計画に志願したのが時期一緒だったっけか」

 「そうね」

 「始まった時は数十人もいた候補から、最終的に残ったのは俺ら二人だけ。俺が第一号で、お前が二号。てめぇで言うのも何だが、まさか俺が最後まで残るとはな」

 「そうね。でも少し違う。超人になったのはあなたが先。だけど、プランとして先に挙がっていたのはわたしの方だから」

 「変なとこに拘るよな、お前」

 実際、【タウロス】と【ヴァルゴ】は互いに気心知れた間柄であることは事実だ。今のどちらが先か後かという発言も、彼女以外の者が口にしていれば間違いなく意地の張り合いから諍いに発展していたことだろう。逆に言えば多少互いの腹を抓り合ったところでどうこうなってしまうような、そんな柔な信頼関係ではないということを伺わせた。

 「懐かしいぜ。連邦のため、人民のため、既に戦場に出た同志のため。色んな期待を背負い込まされて、俺たちは人間を『やめさせられた』。実際のとこは、ただ恩給欲しさに志願したってだけなんだがな」

 「そうね。わたし達以外にも、そういう人いたんじゃないかしら」

 「そういう連中しかいなかったよ。どっかの家の次男坊や三男坊、一旗揚げようと出てきた田舎モン、街中のゴロツキ……みんな食い詰めて金が入用な連中ばっかだった」

 「そして……わたし達以外は、処分された」

 別に隠されていた訳ではない。計画それ自体は秘匿されていたが、その経過に伴う危険性については志願者全員に再三に渡り説明がされていた。良くて生活に支障が出るレベルの後遺症、悪ければ……命を落とす、と。

 その上で参加者は残った。そして過酷な訓練と非人道的な実験の末、二人を除き全員が脱落した。それが第一回超人化計画の結末である。

 「俺たちは厳しい選別を乗り越えてここにいる。それはいけ好かねえ【アリエス】も、頼りない【アクエリウス】も同じだ。ヒトを超えた俺たち超人は、ヒトと同じところがあっちゃならねえ。生き方、在り方、そして死に方さえも、俺たちは何一つとして人間と同じじゃ駄目なんだよ」

 「そうじゃなきゃ、ヒトを超えた意味がない……でしょ?」

 「そういうこった。なのに、あの日和見野郎がっ……!!」

 【タウロス】は怒っていた。たかが人間如きに遅れを取った【リブラ】に対する失望よりも、その胸の内には自分たち超人の存在価値を否定された事への闘志があった。

 「許せねえんだよ! 人間を超えた俺たち。その俺たちと同じ超人になったくせしやがって、野郎は先に逝っちまった。呆気なく、あっさりと、『人間のように』不甲斐なくなぁ!! そのだらしなさに腹が立つ! そして何よりも……!!」

 「わたし達の仲間を奪ったことが許せない……。でしょ?」

 「俺はあいつを好いたことは一度も無ぇ。だけどなあ、そんな野郎でも同じゾディアークだった。なら仇討ちしねえ理由は無い
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