終章 そして北へ

 「揃ったわね。じゃあ、臨時会議を始めさせてもらうわぁ」

 「知ってると思うけど、北のドラクトル山脈の向こう側、ゲオルギア共和人民連邦からまた要求……という名の圧力が掛かったわ。いつも通りの、ウチには教団の取り潰しと、王国には貴族制の完全撤廃を要求してきたわ」

 「まあいつも通り。いつも通り過ぎて普段の私ならフランツィスカに全部任せきりにして、いつも通り私は魔界化計画の立案に戻ってる頃だわ」

 「いつも通りなら、ね」

 「貴方たちの報告の通り、なんだかあの国って秘密裏に『何か』やってるらしいのよね。『何か』が何とまでは分からなかったのだけれど、まず間違いなく何かやらかそうとしている事は確実視してるわ」

 「そのせいかしら。最近、ここ十年くらいあの国の当たりが強いのよねぇ。要求を突っ撥ねても妙に強気に食い下がってくるし、何かどんどん軍備も増強してるみたいだし」

 「で、こうなってくると元人間の貴方たちなら次に何が来るか想像付くんじゃないかしら?」

 「『戦争』……よね」

 「戦争はイヤよねぇ。戦争そのものじゃなくて、戦争で私たちの夫が傷付くのがイヤなのよ。だから私としては、このレスカティエを裏から牛耳る第四皇女としては、どぉーしても戦争は回避したいわけ」

 「そ・れ・で」

 「先に潰しちゃいましょう、向こうの計画」

 「分かってるわ。内政干渉、文明国として最低限のルール、掟破りもイイところ。明るみに出れば指示した私だけでなく、教国の立場そのものが危ぶまれるわ」

 「でもね、座して待ってたらダメなのよ。これは勘だけど、貴方たちも分かるでしょう? 女の勘って、怖いぐらい当たるんだから」

 「もちろん、陛下にもナイショ。知ってるのは今ここにいる人達と、私が任命しようと思ってるメンバーだけ。後は人選を決めるだけ」

 「取り敢えず、候補は二人決まってるの。この子たちなんだけど……」

 「そこまで動揺するかしら? でも、現状この子たち以上の適任はいないわ。もちろん、サポートがいるなら付けさせるけど……必要ないかしら」

 「なら決まりね。早速この二人に連絡を取りなさい」

 「怒りの勇者、イーラ。その伴侶、セレナに」





 “愛”失われた北の果てに、“十二の星”輝く時、“英雄”が現れ、“怒り”が地に満ちる。

 彼の者は彼方を見通し、その果てに“答え”を知る。

 即ちは“終わり”の始まりである。あらゆる最果てに彼の者は全てを“終わらせる”。

 これは、いずれ来たる「滅び」に抗う者たちを描く、その“前日譚”。

 まだ始まってすらいない、悲しみと、嘆きと、そして絶望の……その序章である。
17/04/12 01:42更新 / 毒素N
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