第二章 嫉妬の勇者:前編

 さあさ皆さんお立合い! またもや登場、この街で本当にあったお話の第二弾が始まるよ〜!

 おお、何人か見た顔がいるねえ。この前の続きが気になるかい? そうだろそうだろ、気になるだろ! 

 この街に潜り込んだ勇者は七人! 今日語るのはその二人目! トーマスが欲深な男なら、こいつはちょいと奇々怪々、説明は一言「めんどー」で完了!

 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 勇者失格の烙印を押された男と、そんなどうしようもない男を甲斐甲斐しく世話する聖女さまのお話だ! お代は聞いてからで結構!

 ズバリ、タイトルは『嫉妬の勇者 〜あるいは献身的な聖女の話〜』!!

 それでは、はじまりはじまり〜!





 「俺っちは、ダメなおとこなんだぁ……」

 その夜、酒場の隅の席で酒を浴びるように飲む一人の男が居た。夕方に開店してから何時間もそうしているのか、流石に店員らも付き合いきれないとばかりに呆れ顔だ。

 「故郷の田舎さ捨てて、王都でならいい暮らしが出来っと思ったのによぉ〜。俺っちが能なしなばっかりに、田舎のお父とお母には迷惑ばっかりで……ろくに日銭も稼げねえくせに安酒一杯頼むだけの俺っちなんか……俺っちなんか……死んじまったほうが世の為人の為だよ〜!!」

 それだけ分かっているのなら酒など飲まず、真面目に働けばいいのでは……と、そんなアドバイスすらしない。ここ数日ですっかり常連と化した男だが、大の中年男が大声でおいおい泣き喚く姿を見れば誰だって距離を置くだろう。わざわざ奇特にも真摯に声を掛けてくれる者などいない。

 男の名前は「ゴードン」。前に店員が聞いた話では、出稼ぎの為に王都に上京してきた田舎の三男坊とのこと。長男は家業を継ぎ次男は名家に婿養子に行き、最後に残った穀潰しの彼は半ば勘当同然に家を出されたらしい。一応は出稼ぎと言う名目だが、毎日のごとく酒屋に入り浸って嘆き悲しんでいるところを見ると仕事にはありつけていないらしい。

 とはいえ、脂が落ち始めるこの歳まで悠々自適な三男坊だったことを鑑みれば、誰も彼に同情する者などいないのが普通だ。だがこの日は少し違っていた。

 「いけませんよ、あなたそんなんじゃこの先どうするんですか!」

 「ん〜、あんたは?」

 「私は街の物資や流通を手助けする運搬業を営む者です。あなた見た所体も丈夫そうだ、それを活かさないなんて宝の持ち腐れですよ!」

 「で、でも、俺っちは……グズでノロマで、そのうえ物覚えも悪くて……」

 「誰でも最初は初心者です、恥じる事じゃありません。年齢だって、年老いてヨボヨボになってから気付くよりずっといい! あなたまだやり直せるんですよ!」

 「で、でもよぉ……」

 「乗りかかった船です。どうです、私の経営する会社で働きませんか?」

 「物運ぶ仕事だろぉ? 俺っちの足ってば、こんなんだし……」

 そう言ってゴードンは自分の右脚を見せる。彼が恵まれた職に就けない理由がそこにある。

 「義足ですか」

 「んだよ。だから、社長さんの誘いはありがてえけんど……」

 「でしたら事務の仕事だってありますよ。なあに、覚えれば簡単。要は慣れですよ、慣れ!」

 「しゃ、社長さんはどうして見ず知らずの俺っちにそこまでしてくれるだか?」

 「私も今の規模になるまでには多くの人達に助けられました。今は少しでも、その人達と同じように困っている人々を助けたいのです」

 「しゃ、しゃちょ〜さ〜ん!! おれ、俺っちは感動したよ〜!! 是非、是非ともお願いしますだ!」

 「ええ、ええこちらこそ! 頑張りましょうね!!」

 人の縁とは奇妙なもの。安酒を呷って嘆き悲しむだけだった男の新たな門出に、厄介な客が一人減ってくれたと安堵する周囲だった。





 帰り道、すっかり千鳥足になるまで酔いが回ったゴードンは、ひとまず社長の宅にお邪魔することになり、二人で肩を貸し合いながらその道を歩いていた。既に時刻は深夜、通りに人の気配は無く時折のら猫の鳴き声だけが聞こえる路地だった。

 「こんなことってあるんだなぁ。俺っちってば都会は怖いとこだって聞いてたから、誰も俺っちを助けてなんかくれねえと思い込んでただよ」

 「持ちつ持たれつですよ。困ったことがあれば何でも言ってください、力になりますから」

 社長の方も赤ら顔でアルコール臭い息を吐きながらゴードンの肩を強く抱き寄せる。

 「えへへ、なんだか俺っち、社長さんとはうまくやってけそうだよ〜。あは、あははは! あーそうだ! あのさぁ、さっそくで悪ぃんだけども、俺っちってば困ってることがあるんだな」

 「はい? どうかしました?」

 「じ、実は俺っち、仕事が無いって言いながら本当はちょいとした副業……? みたいなのをや
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