第一章 強欲の勇者:前編

 さあさ皆さんお立合い。今日の演目はいつもと同じ、この街で本当にあった男と女のお話だよ。

 え? 毎度同じ話で聞き飽きたって? 分かる分かる、人と魔物娘の話なんていっつもお決まり、話す前から結末なんて分かり切ってるってもんだ。

 だけどお客さん、今回はちょいと違う。これから語るお話に出てくる男と女、この二人が実に奇妙な関係でね。ああ、お代は聞いてからで結構!

 さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! この街で本当にあった、謎に満ちた男社長と、異国から来た卑しい金貸し娘のお話だ!

 男の正体が誰なのか、今から言ってしまうタイトルでバレバレってのは言わない約束だよ!

 それでは、『強欲の勇者 〜あるいは金貸し狸の話〜』、はじまりはじまり〜!!





 人が生きるためには三つの要素が欠かせないという。

 即ち、衣食住。着る物、食べる物、住む処、この三つが整っていれば人はどんな環境でも生きていける。極端に厳しい環境なら話は別だが、異国にある「住めば都」の諺が示すように、人間というのは環境に慣れる生き物だったりする。

 だがこの三要素がそのまま通じたのは今は昔。時代が下り技術が発展するにつれて人々は、それらがあって当然のものとして享受するようになった。足りて礼節を知るという格言ももはや死語になりつつある。

 そんな堕落した時代を生きるのに必要なモノとは一体何か?

 服か?

 食料か?

 寝泊りする場所か?

 否、どれも違う。

 「金だ。世の全てはこれで回っている」

 そう豪語する青年の手には布袋が一つ。豊満に膨れ上がったその中にはこの国で発行されている最高価値の貨幣、つまりは金貨が大量に入っており、それを机の上で一枚一枚手に取って枚数を確認する。

 部屋にいるのは青年だけではない。彼より一回りは歳が上と思われる男性がソファの上で所在なさげに座っており、額にはてらてらと脂汗が滴っていた。

 「アーサーさん、私はね……商人は信用の生き物だと常々聞かされてきました。ただ物を売り買いして金をやり取りするだけなら子供でも出来る。だが商人とは常に一手も二手も先を見て、十年後、二十年後の利益を生み出さなくてはいけない。だからこそ、取引相手と末永くやっていくために信用第一で行動し、決してそれを裏切ってはならない……違いますか?」

 「いえっ、ええ、まったくその通りです……」

 「でしょう。そして私とあなた、我が貿易会社とあなたの商社の間には確かに信用があった。私達が仕入れた品物をあなた方が売る、互いに損は無い話だった。違いますか?」

 「え、ええ……!」

 アーサーと呼ばれた壮年の男性は青年の言うことにただ頷きながら額の汗を拭く。

 「あなたの会社がここ数年、赤字経営に苦しんでいるのは知っていました。あなただけじゃない。我が社と、我が社と契約を結んでいる他の会社や組合も同じように赤字が続いています。不景気ですからね、これはあなたの責任ではない」

 「そ、そう言っていただけると……」

 「ですが、あなたは遂に社員に支払う給料すら賄えなくなった。こうなってしまうと店を畳むしかないが、先代から受け継いだこの商売を自分の代で潰すのだけは避けたい……そう言って私に頭を下げたのが、いつの話でしたか?」

 「に、五年前です」

 「そう五年前。しかも、貸与してから初めの一年は返済を免除、お返しするのは一定の蓄えが出来てからで結構……私はそう申したはずですね? ところがあなたは私の軍資金で経営を立て直すどころか、借り受けた次の年から先の返済を利息分も満足に返せない有様だ。結果、最初にこちらが与えた軍資金を食い潰す勢いで借金は膨れ上がり……あなたはこうしてここにいる」

 金貨を数え終えた青年はそれをまとめると、それを金庫に収めた。今の金貨こそアーサーが社の財政から搾り取ったなけなしの金だった。しかし、青年の言うように元金を減らすには到底足りないのも事実だった。

 「いけませんね、このままだと冗談では済まされないですよ。アーサーさん、あなたには自社を守るという意識があるんですか?」

 「も、もちろんだ! 身寄りも無かった私の才能を買ってくれた先代の為にも、何より妻子を持つ社員たちを路頭に迷わせたくはない!!」

 「でしたら、やるべきことはお分かりのはず。以前より申していた私の提案、聞き入れてくれますよね?」

 「っ……か、考えさせてほしい」

 「あまりお時間はありませんよ。ああ、私はこれから会議ですので、お帰りの際はお気を付けて。おい、客人がお帰りになられるぞ」

 「いや、結構。自分で……帰れます」

 「そうですか。それでは、次にお会いする時には色よい返事を期待していますよ」

 そう言い残しにこやかな
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