──カツン、コツン。カツン、コツン。
なんの音だ? なにかを金槌が叩いているのか。
──ガラガラ、ガラガラ。
削った土を運び出すのか。ああ、外に出たい。
──ピィー! ピューイ!!
カナリアが鳴いている。ああ、うるさい。早く鳴き止んでくれ。
あ? なんだ? 急に暗くなった。なにも見えない、自分の手も足も見えない。どこまでが掘った穴で、どこからが壁なのか、それも分からない。
暗い、狭い、見えない、聞こえない、息苦しい……。出してくれ、出口はどこだ、早くここから出して……。
どこだ……明かりはどこだ、なにも見えない……怖い、怖い、出口はどこなんだ!?
暗い……。
狭い……。
苦しい……。
……………………。
……………………。
……………………。
……………………。
うるさい。
うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ……!!!!
う る さ い ! ! !
誰だ、土を削るのは! 金槌を振るのをやめろ!! カンカンカンカンと、いい加減にしろ!!
カナリアがうるさい! その甲高い鳴き声を誰か止めさせろ!! 頭に響くんだよ!!
どこだ……どこから響いている! 止めてやる、止めてやるぞこんな騒音!! どいつもこいつも何でぼくをそのままにしておいてくれない、どうしていつもぼくを攻める!? ぼくをイジめてそんなに楽しいのかっ!!? もうぼくを放っておいてくれ、ぼくはただ……ただ静かに過ごしたいだけなんだ!!
お願いだ、頼むから……その音を止めてくれ……!
…………そこだな? そこにいるんだな?
よくも……よくも……!!
その音を──、止めろォォォォォォォォオオオオオオオオオッッッ!!!!
黙れ、黙れぇ!! 黙れだまれダマレェェェッ!!
お前か! お前かッ!! ぼくをイジめるのは、お前かァァァァアアアアアアアア!!!!
だぁぁぁああああアアアまぁあぁああぁああアアァァァあれぇえええええぇぇぇぇぇエエエエエエエエエーーーッ!!!!!
死ね! シネ!! シネしねしネシねしねしねだまレダマれしんデしまエ、ぶっツブれロォォォォオオオオオオオオオ!!!!!!
……………………。
……………………。
……………………。
……………………。
…………ああ、やっと……静かになった。
「────」
ゆらりと黒い体が揺らめき、地面に生えている突起物を掴む。それは僅かな柄だけを残し地面に突き刺してあった馬上槍だった。ソルジャービートルのセレナから奪い取った戦利品であるそれを、もはや元から己の物だったように片腕で振り回す。
「あぁ、化けm──」
全てを言い終える前に役人の頭は自分の胴にめり込んだ。やはり断末魔の叫びはない。元より怒りの使徒はそんな事を許しはしない。
逃げ惑う周囲の人々。だが鎧の奥に隠れた赤い眼はそんな有象無象など見えていない。今の彼は教会の命を受けて行動している。当然、その視線の先には……。
「みィ──げェ──るゥ────」
「……!!」
七人の勇者の団長とその他諸々。抹殺対象以上の意味を持たぬ連中を捉え、馬上槍の先端が唸りを上げる。固く鍛えられ折れず曲がらずのそれがまるで鞭のように空を切り裂き、一薙ぎで命を刈り取る死神の鎌にも見えてくる。
激突、と表現するのもおこがましい一方的な蹂躙と殺戮が始まるまで、まさに秒読み段階に入ろうとしていた。
だが、そんな彼の前に進み出る者があった。
「あなたの相手は……こっち」
「────」
立ち塞がったのは王国最強、馬上槍の本来の持ち主、ソルジャービートルのセレナだった。つい昨日受けたばかりの傷がまだ癒えず満身創痍にも関わらず、彼女の双眸は静かな闘志に燃えていた。勝利を重ね続けてきた彼女は昨日が初めての敗北、そしてこれは初のリベンジマッチ、これまでずっと「挑まれる側」だった彼女は自身が「挑む側」になったことに密かに興奮していた。
すぐ背後でミゲル達が制止する声が聞こえるが無視する。今はただ目の前の男との再戦を望む心しかない。同じ「強さ」を信奉する者としてここまで怪物的な実力を持ったイーラを前に、鉄面皮に隠された彼女の心は躍っていた。例えまた敗北を喫するのであっても正面から死力を尽くしての負けなら潔く認められる。この惨殺劇の主催者たる黒甲冑に対し愛おしさまで覚えていた。
「いざ
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